薬剤師の経験から見えた、認知症高齢者の夏の危険性
毎年夏になると強く感じるのが「熱中症」への不安です。特に、認知症を抱える高齢者の方々にとって、夏は非常に危険な季節になります。なぜなら、彼らは自らの体調の変化を正確に感じ取ることが難しく、周囲が気づかないうちに深刻な状況に陥ってしまうことが多いからです。
今回の記事では、私の20年の薬剤師としての知見と、認知症サポーター養成講座での経験、そして日々の現場での気づきをもとに、「認知症高齢者×熱中症」というテーマで、なぜリスクが高いのか、そして見守る側がどのような点に注意すべきなのか、具体的なチェックリストを交えて解説します。
結論:認知症高齢者は熱中症に気づきにくい!見守りの「五感」が命を守る。
結論から申し上げます。熱中症予防には、見守る側が意識的に「五感」を研ぎ澄まし、わずかな異変を察知することが最も大事です。なぜなら認知症高齢者は、熱中症になっても自分自身でそのサインに気づくことが難しく、また、周囲に伝えることも困難な場合が多いからです。
なぜなら、彼らの身体感覚と、認知機能(物事を認識し、判断する力)が変化しているからです。
理由①:体の感覚の変化と認知機能の低下

1. 暑さや喉の渇きを感じにくい
認知症、特にアルツハイマー型認知症などでは、脳の働きが低下することで、体の感覚を伝える情報が正確に処理されなくなります。その結果、暑さを感じにくかったり、喉が渇いていることに気づかなかったりします。
ご自身の脳で「暑い」という信号を受け取れないため、体が危険な状態であっても、「大丈夫」と答えてしまうのです。これは、本人の気のせいではなく、病気の影響であることを理解することが非常に重要です。
2. 行動の意味を理解できない、言葉に出せない
仮に「暑い」と感じても、それをどう解決すればいいかわからなくなります。「エアコンをつける」という行動が思いつかなかったり、リモコンの使い方がわからなかったり。また、喉が渇いても、「水を飲む」という一連の動作が難しかったりします。
さらに、自分の体調が悪いことを言葉で伝えることが困難な場合もあります。何か異変があっても、「頭が痛い」「体がだるい」と訴えられず、ただ座り込んでいたり、混乱してしまったりすることもあるでしょう。
理由②:服用薬の影響
薬剤師としての視点も加えます。認知症の方は、他の病気(高血圧、糖尿病など)の薬を服用している方も多いです。その薬の中には、熱中症のリスクを高める可能性があるものも存在します。
1. 体温調節に影響する薬
一部の抗精神病薬や抗うつ薬、特定の自律神経に作用する薬などは、汗を出にくくしたり、体温調節機能を低下させたりすることがあります。薬を飲んでいることで、体が熱を逃がしにくくなっている場合があるのです。
2. 尿量を増やす薬
利尿薬(尿を出しやすくする薬)を服用している場合、水分が体外に出やすくなるため、脱水症状のリスクが高まります。喉の渇きを感じにくい中で利尿薬を飲んでいれば、危険性はさらに増します。
これらの薬を服用している場合は、通常以上に水分補給と体温管理に注意が必要です。薬局で薬を受け取る際は、ぜひ薬剤師に「夏の注意点」を聞いてみてください。
3.血圧や血糖を下げる薬
めまい、ふらつきなど引き起こしやすい薬は、熱中症なのか一過性の血圧降下や低血糖なのか判断を難しくします。日々の記録(血圧手帳や血糖手帳など)が判断を見分ける材料の1つになります。服薬の前後の様子も重要です。
具体策:見守りチェックリスト【五感でチェック】

認知症の高齢者が熱中症かどうか判断するための、見守る側のチェック項目を具体的に提案します。実用性を重視し、「五感」を使って確認できるようにまとめました。
1. 視覚でチェック (外見・環境)
- 服装:
- 季節外れの厚着(セーター、冬物のジャンパーなど)をしていないか。
- 帽子をかぶらずに直射日光の下にいないか。
- 服が汗でびっしょり濡れていないか(逆に、暑いのに汗をかいていないのも危険)。
- 顔色・皮膚:
- 顔が赤くなっている、または青白くなっている。
- 皮膚が乾燥してカサカサしている、または逆に異常に汗をかいている。
- 唇が乾いている、または紫色(チアノーゼ)になっている。
- 表情・姿勢:
- ぼーっとしている、視線が合わない。
- ぐったりしている、まっすぐ歩けない、ふらついている。
- いつもと違う、つらそうな、怒ったような表情をしている。
- 部屋の環境:
- エアコンがついていない、または設定温度が異常に高い(例: 30度)。
- 窓が閉め切られ、風通しが悪い。
- カーテンが閉められず、直射日光が部屋に入り込んでいる。
- 飲み物が手の届く範囲に置かれていない。
2. 聴覚でチェック (会話・音)
- 会話の内容:
- 言葉がはっきりしない、呂律が回らない。
- 話のつじつまが合わない、混乱している。
- 何度も同じことを言う、または全くしゃべらなくなる。
- 声のトーン:
- 声が小さく、元気がない。
- 逆に、異常に興奮して大声を出す。
- 本人の訴え(あれば):
- 「頭が痛い」「体がだるい」「気持ちが悪い(吐き気)」といった訴え(※100%ではないため、言葉以外のサインが重要)。
- 「暑くない」「喉が渇いていない」という言葉も、病気の影響である可能性があるため、鵜呑みにしない。
3. 触覚でチェック (身体の異変)
- 皮膚の温度:
- 体に触れた時、熱いと感じる(熱がある)。
- 逆に、皮膚が冷たい(脱水症で末梢の血流が悪くなっている可能性がある)。
- 皮膚の乾燥具合:
- 手の甲や前腕の皮膚を少しつまんでみて、元に戻るのが遅い(皮膚の弾力が低下している)。
- その他:
- 体が震えている、または筋肉がけいれんしている。
4. 生活リズム・行動でチェック
- 食事の様子:
- 食欲がない、または食事が全く進まない。
- 飲み物を飲むのを嫌がる。
- トイレの回数:
- いつもよりトイレに行く回数が少ない、または全く行かない。
- おむつが濡れていない時間が長い。
- 尿の色が濃い(オレンジ色や茶色に近い)。
- 便の状態:
- 便秘が続いている(脱水症で便が硬くなる)。
- 睡眠:
- 日中、いつもより眠そうにしている、または眠り続けている。
- 夜、眠れずに混乱している。
薬剤師おすすめの対策グッズ

ここで、私が薬剤師として、認知症高齢者の熱中症予防におすすめするグッズを紹介します。日々の見守りに、ぜひ活用してみてください。
1. 経口補水液 (ORS)
「もしも」の時のために、ご自宅に常備しておくと安心なのが、効率的に水分と電解質を補給できる経口補水液です。熱中症の初期症状だけでなく、脱水症が疑われる時にも役立ちます。
味も飲みやすいものが増えています。水やスポーツドリンクよりも、効率的に水分と電解質(塩分など)が体に吸収されるため、脱水症状に早く対応できます。
2. 見守りカメラ (遠隔監視)
遠くに住むご家族の様子が心配な時、部屋の温度や本人の様子をリアルタイムで確認できる見守りカメラが、大きな安心につながります。外出先からもスマホでチェックできるタイプがおすすめです。
部屋の温度計の数値を確認したり、本人がぐったりしていないか、変な服装をしていないかなどを、リアルタイムで確認できます。異変があった時にすぐに対応できます。
[商品リンクプレースホルダー]
3. 温度・湿度計 (大型)
部屋の環境が一目でわかる大きなディスプレイの温度・湿度計を、見やすい場所に置きましょう。ご自身で見ることは難しくても、見守る側が客観的な数値に基づいて判断できます。
高齢者の方は、暑さを感じにくいだけでなく、湿度も感じにくいことが多いです。大きな数値で表示されるため、遠くからでも確認しやすく、適切な環境管理に役立ちます。
まとめ:予防こそが最大の薬。地域全体で見守る。

薬剤師として、日々多くの薬を患者さんにお渡ししています。しかし、熱中症に関しては、何よりも「予防」が最大の薬です。特に、認知症高齢者は、自分では予防できない状況にあることが多いです。
ご家族や介護職の方はもちろん、地域全体で、認知症の方を夏の暑さから守りましょう。こまめな声かけ、適切な環境管理、そして、何気ない変化に気づく「五感」を通じた見守りの力。これらが集まって、命を守ることにつながります。
この記事が、皆さんの大切な方を守る一助となれば幸いです。もし、何か不安なことやわからないことがあれば、お気軽に近くの薬局の薬剤師にご相談ください。私たちは、いつでも皆さんの健康をサポートしています。
出典
- 環境省:「熱中症予防情報サイト」
- 厚生労働省:「熱中症を防ぐために」
- 日本認知症ケア学会
- 日本薬剤師会
日付:2026年7月


コメント