認知症の方の状態を把握することは、適切なケアを提供し、ご本人の生活の質(QOL)を維持・向上させるために非常に重要です。また、服薬治療の効果を見極める上でも、日常的な観察が欠かせません。
家族や介護者の方が、日々の生活の中で無理なくチェックでき、医師やケアマネジャーとの共有に役立つ指標やポイントを整理しました。
1. 3つの視点でのチェックポイント

① 認知機能(中核症状)
脳の働きそのものが低下することによる症状です。薬が主にアプローチするのはこの部分です。
- 記憶(特に最近の記憶):
- □ さっき話したことを忘れる。
- □ 同じ質問を何度も繰り返す。
- □ 置き忘れたり、物をなくしたりすることが増えた。
- 見当識(時間・場所・人):
- □ 今日が何日か、何曜日かがわからない。
- □ 季節に合った服装を選べない。
- □ 住み慣れた場所で道に迷う。
- □ 家族の顔や名前が一致しないことがある。
- 理解力・判断力・実行機能:
- □ 料理や洗濯など、段取りのある作業が難しくなった。
- □ 複雑な会話の内容が理解できない。
- □ テレビやニュースの内容についていけない。
② 行動・心理症状(BPSD)
認知機能の低下に、環境や心理的な要因が重なって現れる症状です。介護負担に大きく影響します。
- 心理 symptoms:
- □ 気分が沈んでいる(抑うつ)。
- □ 趣味や好きなことに興味を示さなくなった(アパシー)。
- □ 理由なく不安がったり、怖がったりする。
- 行動 symptoms:
- □ 興奮しやすく、怒りっぽくなった(易怒性)。
- □ 目的なく歩き回る(徘徊)。
- □ 「物を盗まれた」などの思い込みがある(妄想)。
- □ 実際にはないものが見えたり、聞こえたりする(幻覚)。
- □ 服薬や介護を拒否する。
③ 日常生活の動作(ADL・IADL)
日々の生活を送るための能力です。これが維持されているかが、自立度の目安になります。
- 基本動作(ADL):
- □ 食事(一人で食べられるか)。
- □ 入浴(一人でお湯に浸かれるか、洗えるか)。
- □ 排泄(トイレの場所がわかり、一人でできるか)。
- □ 着替え(季節や場に合った服を選び、着られるか)。
- □ 移動(家の中や外を安全に歩けるか)。
- 手段的動作(IADL):
- □ 買い物(必要なものを買い、お金を払えるか)。
- □ 金銭管理(通帳や現金を管理できるか)。
- □ 服薬管理(決められた薬を決められた時間に飲めるか)。
- □ 電話(かける、受けるができるか)。
- □ 交通機関の利用(バスや電車に乗れるか)。
2. 薬の効果を判定するポイント

認知症の薬は、症状を完全に治すものではなく、「進行を遅らせる」または「BPSDを和らげる」ことを目的としています。効果判定には、数ヶ月単位での長期的な観察が必要です。
何を「効果」とみなすか
- 症状の改善: 「以前より言葉がスムーズに出るようになった」「穏やかになった」。
- 状態の維持: 「1年前とあまり変わらない状態が続いている」。(進行が遅れていると捉えられます)
- 悪化の緩やかさ: 緩やかに悪化しているが、薬を飲んでいない場合を想定すると、そのスピードが遅くなっている可能性がある。
具体的な観察例
| 観察項目 | 効果が出ている可能性 | 効果が不十分・または悪化の可能性 |
| 記憶 | 同じ質問の頻度が減った。 | さっき言ったことを直後に忘れることが増えた。 |
| 見当識 | 日付や季節を気にするようになった。 | 昼夜が逆転し、今の時間がわからない。 |
| 表情・意欲 | 表情が豊かになり、自分から動くことが増えた。 | 一日中ぼんやりしている、何もしようとしない。 |
| 行動 (BPSD) | 怒りっぽさが収まり、穏やかな時間が増えた。 | 徘徊や暴言、妄想が激しくなった。 |
| 日常生活 | 手助けが少なくて済むようになった。 | 以前はできていた「着替え」ができなくなった。 |
副作用のチェックも忘れずに
- □ 吐き気、下痢、食欲不振(特に飲み始め)。
- □ 興奮、イライラ、不眠。
- □ ふらつき、転倒。
- □ 脈が遅くなる(徐脈)。
3. お手軽!便利なサポートツール(アプリ・WEBサイト)

日々の観察に加えて、アプリやWEBサイトを活用することで、より手軽に、あるいは客観的に状態を把握したり、脳のトレーニングをしたりすることができます。以下に、便利なサービスを紹介します。
- セルフチェック・認知機能チェック
- 脳の健康度をセルフチェック「のうKNOW」: 手軽に脳の健康状態を確認できます。
- デジタル認知機能チェックツール「エクスプレッソ」: デジタルツールを使って、より詳細に認知機能をチェックできます。
- 医療機関検索・相談
- MCI・認知症医療機関ナビ「ミツカル」: 専門の医療機関を探すのに役立ちます。
- 医療機関検索「もの忘れ相談ナビ」: もの忘れが気になった時の相談先や医療機関を検索できます。
- 脳トレ・活性化
- 脳への刺激・活性化を促すゲーム「ブレワク」: 楽しみながら脳を活性化させることができます。
- 介護者支援・診療サポート
- 介護者支援AI「ヨルニモ」: 介護の悩みや相談にAIが対応し、介護者をサポートします。
- MCI・軽度認知症診療をサポートするアプリ「ササエル」: 診療をスムーズに進めるためのサポートツールです。
これらのツールは、状態の把握や、介護の負担軽減、早期発見の一助となります。目的に合わせて活用してみてください。
指標活用とサポートツール利用の注意点
1. 客観的な事実を記録する(介護日誌の活用)

「最近ひどい」といった主観だけでなく、「〇月〇日、夜中に起きて『帰る』と言った」「〇日連続で薬を飲めた」など、具体的な日付と出来事、頻度を記録しましょう。医師に伝える際に非常に役立ちます。
2. 公的な指標も参考に
医師や専門家は、以下のような指標を使って状態を総合的に判断します。介護者の方は、これらの言葉を知っておくと、専門家との話がスムーズになります。
- 中核症状の検査: HDS-R(長谷川式認知症簡易評価スケール)やMMSEなど。点数で認知機能の程度を表します。
- BPSDの評価: NPI(神経精神症状質問票)など。家族への面接などで症状の頻度と重症度を評価します。
- 日常生活の自立度: 「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」。ランクI、IIa、IIb、IIIa、IIIb、IV、Mで表されます。ケアプラン作成の基礎になります。
3. 専門家と連携する
指標、アプリ、記録は、あくまで医師やケアマネジャーと相談するためのツールです。自己判断で薬を増やしたり、止めたりすることは絶対に避けてください。少しでも気になる変化があれば、記録やチェック結果を持って相談しましょう。
4. 本人の気持ちを尊重する
指標で「できないこと」に目を向けがちですが、本人は不安や葛藤の中にいます。「何ができて、何が楽しいと感じるか」といったポジティブな側面も観察し、本人のペースに合わせたケアを心がけてください。
この記事が、認知症の方とそのご家族の、より良い生活の一助となれば幸いです。


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