薬剤師が教える!認知症介護の冬の落とし穴「ヒートショック」を完璧に防ぐ方法

在宅

はじめに

冬の朝、冷え切った廊下を通るたび、「認知症のAさんは、今日も大丈夫だろうか」と、患者さんの顔が思い浮かびます。薬剤師として20年、多くの認知症患者さんと接してきましたが、冬は特に緊張感が高まる季節です。なぜなら、彼らにとって、冬は命を脅かす大きなリスクがあるからです。

その正体こそが、急激な温度差によって血圧が変動する「ヒートショック」です。浴室や脱衣所、夜間のトイレで多発し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすこの現象は、高齢者にとって致命的となり得ます。認知症のある方は、さらに「暑さや寒さをうまく感じにくい」「体調の変化を自分で訴えられない」といった特有のリスクを抱えています。

「本人が『寒い』と言わないから大丈夫」 「見守っていれば防げる」

もしそう思われているなら、それは非常に危険です。見守りには限界があります。薬剤師として、そして介護者の悩みを近くで聞いてきた者として、私は「本人のこだわり」よりも「物理的な環境整備」こそが、命を守る最善の策であると断言します。今回は、ヒートショックから愛する人を守るための、具体的な対策と環境調整のコツについて解説します。


結論:ヒートショック対策の核心は「温度差の解消」

結論から申し上げます。ヒートショックを防ぐためには、家の中の温度差をなくすことが何よりも重要です。なぜなら、ヒートショックは「急激な温度差」が原因で、血圧が乱高下することによって起きるからです。

1. 理由:急激な温度差は体に大きな負担

私たちの体は、寒い場所に行くと、血管を縮めて体温が逃げるのを防ごうとします。このとき、血圧は急上昇します。逆に、暖かい場所や熱いお湯に入ると、血管が広がって血圧は急下降します。

この「急上昇」と「急下降」が、短い時間で起きると、心臓や脳に大きな負担がかかります。その結果、心筋梗塞や脳卒中、あるいは立ちくらみによる転倒、浴室での意識消失といった事故につながるのです。

特に認知症の方は、体温調節機能が低下しており、健康な人に比べて血圧の変動が大きくなりやすい。さらに、感覚の低下により「寒い」と感じにくいため、冷え切った浴室にそのまま入ってしまい、血圧が激変することが少なくありません。


2. 事例:「まさか」のタイミングで起きた浴室事故

かかりつけの患者さんで、認知症治療薬を服用していた男性Aさんの事例です。一年中厚着をして過ごす方で、奥様からも「季節に合った服装をしないのよね」と、よく愚痴を聞いていました。

ある冬の日、奥様が薬を取りに来られた際に、顔面蒼白で「主人がヒートショックで倒れて入院した」と伺いました。

夜、奥様がAさんのために浴室を温め、お湯も40℃以下に設定していました。しかし、Aさんは「もっと熱いお湯がいい」とこだわり、奥様が目を離した隙に、設定温度を上げてしまい、冷えた脱衣所から熱いお湯に入ってしまったのです。その直後、立ちくらみを起こし、浴槽で意識を失っているのを奥様が発見されました。

奥様も「何度言っても、設定温度を変えるのをやめてくれない」と泣き崩れておられました。

この事例は、「本人が自分で調整できない」こと、そして「介護者が付き添っていても、一瞬の隙に事故が起きる」という現実をよく表しています。介護者の見守りには、限界があるのです。


具体的な対策①:浴室・脱衣所の徹底的な温度管理

浴室と脱衣所の温度管理は、ヒートショック対策の最優先事項です。本人の「こだわり」や「感覚」に頼らず、物理的な環境整備で防ぐ必要があります。

1. 浴室・脱衣所を温める

浴室・脱衣所を、入浴前からしっかり温めておくことが重要です。室温の目安は20℃以上です。小型のファンヒーターや浴室暖房機を活用して、部屋全体の温度差をなくしましょう。

2. お湯の温度は40℃以下

お湯の温度は、40℃以下に設定しましょう。41℃以上は血圧の変動が大きく、危険です。認知症の方は、熱い湯を好む傾向があるため、介護者があらかじめ設定温度を固定するなどの工夫が必要です。


【提案】介護の負担も減らせる「暖房グッズ」の活用

「浴室や脱衣所を常に温める」というのは理想ですが、24時間暖房をつけっぱなしにするのはコストがかかり、また、介護者が常に付き添うのも現実的ではない。そこで、限られた時間だけ、しかも安全に温めるためのグッズ活用が、介護の負担を大幅に減らし、何より命を守ることにつながります。

1. 小型ファンヒーター(浴室・脱衣所用)

脱衣所に置く小型ファンヒーターは、人感センサー付きのものが特にお勧めです。介護者がつきっきりでなくても、本人が入れば自動でオンになり、脱衣所を温めてくれます。これで、冷え切った脱衣所で血圧が急上昇するリスクを大幅に軽減できます。

2. Bathroom heater (浴室暖房機)

浴室全体の温度差をなくすなら、浴室暖房機が最適です。後付け工事不要、または簡単な工事で設置できるタイプを紹介します。浴室全体が温まることで、お湯の設定温度を上げなくても、十分に温かさを感じることができます。

これらのグッズは、ヒートショックだけでなく、浴室での立ちくらみによる転倒防止にも役立ちます。環境を整えることで、介護者の見守りの負担も減り、心にゆとりが生まれます。


具体的な対策②:トイレの環境改善

トイレでの注意点も忘れてはいけません。夜間の排泄は、転倒とヒートショックの両方のリスクがあります。

1. 廊下やトイレに暖房器具を置く

夜間の寒さ対策として、廊下やトイレに小型の暖房器具を置きましょう。これも、人感センサー付きが便利です。冷え切った廊下を通らなくて済むだけで、血圧の変動は緩和されます。

2. ポータブルトイレの活用

夜間の寒さが厳しい場合、寝室にポータブルトイレを設置するのも一案です。冷え切った廊下やトイレまで歩く必要がなくなります。介護の負担も減らせます。


薬剤師の視点:服薬とヒートショック

薬剤師の視点から、服薬とヒートショックの関連についても解説します。

1. 服薬の影響

降圧薬を服用している方は、血圧の変動が起きやすいため、入浴直後や寒暖差が大きい環境に注意が必要です。特に「朝の服薬直後の入浴」は避けるべきです。また、抗コリン薬は脱水を助長することがあるため、水分補給も重要です。

薬歴記入では、こうしたリスクを踏まえ、介護者に具体的な指導を行います(「入浴前に浴室を温めましたか?」など)。


【おすすめ】ヒートショック防止グッズ

前述したヒートショック防止グッズの詳細と、選び方のポイントを紹介します。

1. 人感センサー付き小型ヒーター(脱衣所・トイレ用)

  • メリット: 省スペース、人感センサーで介護者の手間軽減、自動オフで節電。
  • 選び方: 設置場所に合わせてサイズ、出力、防滴性能(浴室近くで使用する場合)を確認。
  • おすすめの商品: 「人感センサー付きセラミックヒーター」

2. Bathroom heater (浴室暖房機、後付けタイプ)

  • メリット: 浴室全体の温度差をなくす、お湯の温度を下げても温かさを維持、転倒防止。
  • 選び方: 設置工事の有無、暖房能力、機能(衣類乾燥、換気など)を確認。
  • おすすめの商品: 「浴室暖房機」

まとめ:ヒートショックは防げる事故

認知症高齢者は、体温調節・危険察知・判断力の低下により、ヒートショックのリスクが非常に高い。防ぐためには、家の中の温度差を解消することが核心です。

夏は定時の水分補給と服装・環境の工夫、冬は浴室・脱衣所の温度管理と入浴習慣の調整が不可欠。薬剤の影響もあり、医師・薬剤師と連携しながら介護することが望ましい。

「厚着をやめられない」患者さんの事例のように、本人のこだわりや症状が介護を難しくすることもある。しかし、環境を整えることで、防げる命があります。環境整備にお金をかけることは、結果として高額な医療費や、介護負担の激増を防ぐ「投資」です。介護者は悩みを一人で抱え込まず、医療・介護の専門職に相談しながら工夫していくことが重要です。


参考文献・出典

  • 厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料」(最終アクセス日:2026年2月27日)
  • 消費者庁「高齢者の事故防止 ヒートショック対策」(最終アクセス日:2026年2月27日)
  • 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2020」(最終アクセス日:2026年2月27日)
  • 日本医師会「ヒートショックに関する注意喚起」(最終アクセス日:2026年2月27日)
  • 日本薬剤師会「高齢者における服薬と脱水・血圧変動のリスク」(最終アクセス日:2026年2月27日)

夜間のトイレ移動は、介護者にとってもご本人にとっても、精神的・身体的に大きな負担となり、冬場はヒートショックや転倒の大きなリスクとなります。特に、利尿剤や降圧薬を服用されている高齢者は、夜間の排泄回数が増えることがあり、トイレへの移動は大きな危険を伴います。そのような不安を少しでも和らげるために、寝室に置けるポータブルトイレの活用を、薬剤師の立場から強くお勧めします👇

認知症ケアでは、「いつもと違う」状態に早く気づくことが、体調悪化や事故を防ぐ鍵となります。しかし、24時間、常にそばにいることは現実的ではありません。離れている時でも、ご本人の状態を確認でき、必要に応じて声かけができる見守りカメラは、介護者の負担を軽減し、安心安全な介護を続けるための強力なツールとなります👇

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