毎日ご家族の介護、本当にお疲れ様です。
調剤薬局で20年、地域医療や認知症サポーター養成講座などに携わってきた現役薬剤師が、今回は「塗り薬の正しい使い方」についてお話しします。
「薬を塗ろうとすると嫌がって怒る」 「服がベタベタになるからと拭き取られてしまう」 認知症の親御さんやご家族のスキンケアで、こんなお悩みはありませんか。
実は、塗り薬は「ただ塗ればいい」というものではありません。薬の選び方や塗る量、そして「塗り方への少しの配慮」で、ご本人の不快感を減らし、介護する側の負担もグッと軽くすることができます。
今日からすぐに実践できるポイントをまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
高齢者の肌はトラブルが起きやすい

年齢を重ねた高齢者の肌の状態は、私たちが思っている以上にデリケート。皮脂の分泌量が減り、水分を保つ力が弱まっているため、常に乾燥しやすい状態にあります。
少しの刺激で傷がつきやすく、バリア機能が低下しているため、様々な皮膚トラブルを引き起こしやすいのが特徴。 毎日のベースとなるスキンケアには、肌に潤いを与える「保湿剤」や、刺激から肌を守る「保護剤」が欠かせません。
その上で、症状に合わせて以下のようなお薬が処方されます。
- ステロイド剤:湿疹などの炎症を抑える
- かゆみ止め:乾燥などに伴う不快なかゆみを鎮める
- 水虫など真菌症の薬:カビの一種が原因の感染症を治療する
- ウイルス性(帯状疱疹)の薬:ピリピリとした痛みを伴う水ぶくれなどを治療する
自己判断で市販薬を塗ると悪化することもあるため、まずは医師の診断を受けることが大切です。
軟膏、クリーム、ローション。どう使い分ける?
お薬をもらったとき、なぜこの形(剤形)なんだろうと疑問に思ったことはありませんか。実は、肌の状態に合わせて最適なものが選ばれています。
- 軟膏(なんこう):ワセリンなどの油分が多く、肌をしっかり保護します。刺激が少ないため、ジュクジュク(ぐじゅぐじゅ)した傷口にも、カサカサに乾燥した場所にも使える万能タイプ。ただし、少しベタつくのが難点。
- クリーム:水分と油分が混ざっており、伸びが良くサラッとした使い心地。水で洗い流しやすいのも特徴。主にカサカサした肌に向いていますが、傷口などジュクジュクした部分に塗るとしみて痛いことがあるので注意が必要です。
- ローション剤:液状で非常に伸びが良く、さっぱりしています。髪の毛がある「頭皮に塗る場合」などに大活躍します。
肌の状態をよく観察し、ぐじゅぐじゅか、かさかさかによって使い分けるのが基本ルール。合わないものを塗ると嫌がる原因にもなるので、処方時にしっかり確認しましょう。
塗り薬の妥当な量って?「FTU」という目安

「どのくらい量を塗ればいいのか、いつも適当になってしまう」というご相談をよく受けます。少なすぎると効果が出ず、多すぎると副作用のリスクが高まることも。
そこで覚えておきたいのが「FTU(フィンガー・チップ・ユニット)」という単位。
大人の人差し指の先端から第一関節まで、チューブから薬を絞り出した量が「1FTU(約0.5g)」です。 この1FTUで、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのが適切な量。ローションの場合は、1円玉大に出した量が1FTUに相当します。
塗った後の目安としては、肌がティッシュペーパーを一枚乗せても落ちないくらい、少し「てかり」が出る程度が正解です。 すり込むのではなく、肌の上に優しく乗せるように広げるのがポイント。
服が汚れる、ベタつきが気になるときの対策
「服につくのが嫌だ。べたつきが気になる」と、ご本人がティッシュで拭き取ってしまうこと、ありますよね。 そんな時は、薬を塗ってから5分ほど待ち、肌に浸透してから服を着てもらうか、どうしても気になる表面のベタつきだけをティッシュで「軽く押さえる(こすらない)」ようにしてみてください。
また、塗ったところをガーゼなどで覆っていいのか?乾燥させたほうがいいのか?と迷う方も多いはず。 基本的には、医師から指示がない限りガーゼ等で密封する必要はありません(密封すると薬の吸収が上がりすぎてしまう副作用の危険があります)。また、乾燥させる必要はなく、保湿された状態を保つことが回復への近道です。
「そうは言っても、塗った後、ベタつくからすぐ拭き取りたい」というお気持ち、よく分かります。しかし、お薬は塗ってから時間をかけてじっくりと肌に染み込んでいきます。また、ベタベタした成分自体が、乾燥したお肌を守るバリアにもなっているのです。
ですから、基本的には拭き取らず、そのままにしておくのが一番効果的です。
どうしてもベタつきが気になる場合は、塗ってから15分〜30分ほど経ってから、清潔なティッシュを優しく当てて、表面の油分をかるーく押さえる程度にしてください。決して、ゴシゴシとこすり落とさないようにしましょう。
毎日のことでどうしても辛い場合は、無理をせず、もっとサラッとしたタイプのお薬に変えられないか、医師や薬剤師に相談してみてくださいね。
介護は長丁場です。100点の正論よりも、80点でも毎日笑顔で続けられる方法を選ぶことが、結果としてご本人にとっても、介護者にとっても最良の選択になることが多いのです。
認知症患者さんへ塗る際の「配慮」

認知症の方に薬を塗る際、突然服をめくったり、無言で冷たい手を当てたりすると、驚いて不穏な状態になってしまうことがあります。恐怖心から介護拒否につながることも少なくありません。
以下のポイントを意識して接してみましょう。
- 声をかけながら行う:「お薬塗って、かゆいの治しましょうね」と、これから何をするのか優しく伝えます。
- 手を温めておく:冷たい手で触れられるのは誰でも不快なもの。少し手をこすり合わせて温めてから触れます。
- 視界に入ってから触れる:背後から急に触らず、正面から目を見て声をかけます。
- 本人のペースに合わせる:強く拒否されたら無理強いせず、時間を変えてみるのも一つの手です。
肌へのタッチング(優しく触れること)は、ご本人の安心感につながるリラックス効果も期待できます。スキンケアの時間を、あたたかいコミュニケーションの場にできると理想的です。
ステロイド剤の正しい知識と副作用
「ステロイド=怖い薬」というイメージを持つ方もいますが、正しく使えば非常に優れた効果を発揮します。
ステロイド剤には強さのランク(1群から5群まで)があり、症状や塗る部位によって医師が適切な強さを選びます。 例えば、顔や目の周りは皮膚がとても薄く、薬の吸収率が腕の何倍も高いため、弱いランクの薬が選ばれます。特に目の周りに強い薬を長期間塗り続けると、緑内障などの副作用を引き起こす可能性があるため、自己判断で「体に塗っていた薬の余りを顔に塗る」のは絶対に避けてください。
塗り薬の副作用について、家族が判断できるか不安になるかもしれません。 皮膚が薄くなる、赤みが増す、薬を塗っているのにかえってジュクジュクしてくる(細菌感染を起こしている可能性)などの変化があれば、すぐに使用を中止して医師や薬剤師に相談してください。毎日のスキンケアの際に、肌の状態をよく観察することが一番の予防策となります。
保管のポイントと使用期限

最後に、お薬の管理について。 「塗り薬は冷蔵庫に入れる必要があるのか?置き場所はどこがいい?」と聞かれることがあります。
結論から言うと、特別な指示(冷所保存など)がない限り、室温(1〜30℃)で直射日光の当たらない場所に保管すれば大丈夫です。軟膏を冷蔵庫に入れると硬くなってしまい、高齢者の肌に塗る際の摩擦(刺激)になり逆効果になることも。 認知症の方の手の届かない場所、かつ誤飲を防ぐために飲み薬や食品とは別の引き出しに保管することが重要です。
開封後の期限については、チューブに入ったままのものであれば開封からおよそ半年、薬局で複数の薬を混ぜて容器(ツボ)に入れたものは約1ヶ月が目安となります。古くなった薬は成分が変質している可能性があるため、もったいないと思わずに処分しましょう。
正しい知識と少しの工夫で、介護される方も、する方も、穏やかな毎日を過ごせるようになります。お薬のことで迷ったら、いつでもかかりつけの薬剤師に相談してくださいね。
【出典・参考資料】 ・公益社団法人 日本皮膚科学会ガイドライン ・認知症高齢者のスキンケアに関する看護研究報告 (執筆日:2026年3月18日)
処方された保湿剤を使い切ってしまった場合、医療用と同じヘパリン類似物質が配合されている塗り薬をおすすめします。また、国の医療費抑制の動きもあり、保湿剤を医療保険で処方されない場合も増えてきています。市販薬で対応していくケースももはや珍しくありません。そんなときのおススメの市販薬保湿剤を以下に提案しましょう👇


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