親の物忘れ、認知症?スクリーニング検査の全貌と家族の事前準備

生活支援

はじめに

「最近、実家の母が同じ話を何度も繰り返すようになったんです」 「父が約束の日時を忘れることが増えて、認知症じゃないかと心配で…」

薬局の窓口に立っていると、こうしたご家族からの切実な相談を受けることが少なくありません。 「病院に連れて行きたいけれど、本人が嫌がる」「どんな検査をされるのか分からなくて不安」──その気持ち、痛いほどよく分かります。未知のものに対する不安は、誰しもが抱くものです。

認知症の診断において、最初に行われるのが「スクリーニング検査」です。 これは、いわば「認知症の入り口」を確認するためのチェック。決して怖いものではありませんし、これだけで全てが決まるわけでもありません。しかし、その内容や意味を正しく知っているかどうかで、検査を受けるご本人と、付き添うご家族の心の負担は大きく変わります。

この記事では、現役の薬剤師としての視点や、地域医療で連携するケアマネジャーや医師との経験を交えながら、「認知症スクリーニング検査の正体」と「家族が事前に準備すべきこと」について、徹底的に解説します。

正しい知識は、不安を安心に変える一番の特効薬です。ぜひ最後までお付き合いください。


1. 認知症スクリーニング検査とは?なぜ必要なのか

結論から申し上げます。スクリーニング検査とは、「認知症の疑いがあるかどうかを効率よく振り分けるための、簡易的なフィルター」です。

なぜこれが必要なのでしょうか? それは、「物忘れ=認知症」とは限らないからです。

高齢者の物忘れには、「加齢による自然な物忘れ」と「病気(認知症)による物忘れ」、そして「うつ病や薬の副作用などによる一時的な機能低下」があります。これらを最初に見極めるために、スクリーニング検査が行われます。

検査は「診断」ではなく「気づき」のツール

誤解されがちですが、この検査の点数が悪いからといって、即座に「あなたはアルツハイマー型認知症です」と診断されるわけではありません。 スクリーニング検査は、あくまで「詳しい検査が必要かどうか」を判断するための判断材料の一つです。

  • 時間: 10分〜15分程度
  • 場所: 診察室や相談室
  • 内容: 会話形式の質問や、簡単な図を描くこと

これらは、ご本人の負担を最小限に抑えつつ、脳の働き(記憶力、計算力、言語能力、空間認識能力など)を客観的な数値として評価できるように設計されています。


2. 代表的な3つの検査方法(MMSE・長谷川式・時計描画)

病院やクリニックで主に行われる、代表的な3つの検査について詳しく解説します。これらを知っておくと、実際に検査を受ける際に慌てずに済みます。

① 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

日本で開発された、最もポピュラーな検査です。主に「記憶力」を中心とした評価に特化しています。

  • 満点: 30点満点
  • 目安: 20点以下で認知症の疑いあり
  • どんなことをするの?
    • 年齢・日付・場所の確認: 「今日は何月何日ですか?」「ここはどこですか?」といった質問で、自分が置かれている状況(見当識:けんとうしき)を理解できているか確認します。
    • 言葉の記憶: 「桜、猫、電車」などの単語を覚えてもらい、後でもう一度言えるか確認します(遅延再生)。
    • 計算: 「100から7を引いてください。そこからまた7を引いて…」という引き算を行います。
    • 言葉の流暢性: 「野菜の名前をできるだけ多く言ってください」といった質問で、言葉がスムーズに出てくるかを見ます。

【ポイント】 HDS-Rは、特に日本人の生活習慣や文化に馴染みやすく、会話の中で自然に行えるのが特徴です。

② MMSE(ミニメンタルステート検査)

世界中で最も広く使われている検査です。長谷川式と似ていますが、「図形的な能力」も評価に含まれるのが特徴です。

  • 満点: 30点満点
  • 目安: 23点以下で認知症の疑いあり、27点以下で軽度認知障害(MCI)の疑い
  • どんなことをするの?
    • 長谷川式と同様の、日時や場所の質問、計算、記憶の確認。
    • 図形模写: 五角形が重なった図形を見本通りに書き写せるかを確認します。これは「空間認識能力」を見る重要な項目です。
    • 文章の理解: 「目を閉じてください」と書かれた紙を見せ、その通りに行動できるかなどを確認します。

③ 時計描画テスト(CDT)

その名の通り、紙に「時計の絵」を描いてもらう検査です。

  • 指示の例: 「文字盤のある時計の絵を描いて、10時10分の針を描き入れてください」
  • 何がわかるの? 単純そうに見えますが、このテストは非常に高度な脳の機能を必要とします。
    1. 円を描く(空間認識)
    2. 数字を1から12まで正しい順序・配置で書く(記憶・構成能力・計画性)
    3. 指定された時間の位置に針を描く(意味理解・実行機能)
    認知症の初期段階、特に視空間認知(目で見た情報を処理する力)が低下している場合、数字が片側に寄ってしまったり、針が正しく描けなかったりすることがあります。

3. 「点数が低い=認知症」と決めつけないで!結果を左右する要因

ここが、私が薬剤師として最も強調したい部分です。 スクリーニング検査の点数が低かったとしても、原因が「脳の病気(認知症)」だけとは限りません。

以下の要因によって、一時的に認知機能が落ちているように見えることがあります(これを「偽認知症」と呼ぶこともあります)。

① 薬剤性の認知機能低下

私たち薬剤師がまず疑うのがこれです。 高齢者は薬の代謝能力(体から薬を排出する力)が落ちているため、若い頃と同じ薬でも副作用が出やすくなります。特に以下の薬は、記憶力や注意力を低下させるリスクがあります。

  • 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など): 脳の活動を抑えるため、ぼーっとしたり、記憶が曖昧になったりすることがあります。
  • 過活動膀胱の薬・かゆみ止め(抗コリン作用を持つ薬): アセチルコリンという、記憶に関わる脳内物質の働きをブロックしてしまうことがあります。
  • 痛み止めの一部

「最近ボケてきたかも」と思ったら、実は**「薬が効きすぎていただけだった」**というケースは決して珍しくありません。この場合、薬を調整することで症状が劇的に改善することもあります。

② 難聴・視力低下

検査官の質問が「聞こえていない」、提示された図や文字が「見えていない」ために答えられないケースです。 これは「理解できていない」のではなく「入力情報が届いていない」だけです。検査時には、必ず補聴器や眼鏡を持参し、装着した状態で受けることが重要です。

③ 心理状態(うつ・緊張)

高齢者のうつ病は、「仮性認知症」とも呼ばれ、反応が鈍くなったり、「分からない」と答えることが増えたりします。また、検査に対する極度の緊張や、「試されている」という不快感から、わざと答えない場合もあります。


4. 家族だからできる!検査前の「3つの準備」

医師は診察室でのご本人の姿しか見ることができません。 普段の生活の様子を知っているご家族の情報提供こそが、正確な診断への鍵となります。受診前に以下の3つを準備しましょう。

準備① 「気になる行動」のメモ(生活日誌)

「いつから」「どんな症状が」「どのくらいの頻度で」起きているかを具体的にメモしてください。

  • 悪い例: 「最近ボケてきて心配です」
    • (これだと抽象的すぎて、医師も判断に困ります)
  • 良い例:
    • 「3ヶ月前から、鍋を焦がすことが週に2回ほどある」
    • 「半年前から、好きだった編み物をやらなくなった」
    • 「先週、通い慣れたスーパーからの帰り道が分からなくなった」
    • 「昨日の夕食のおかずは思い出せないが、昔の体験談は詳しく話す」

このように「エピソード」と「頻度」があると、医師は認知症の種類(アルツハイマー型、レビー小体型など)を推測しやすくなります。

準備② お薬手帳と既往歴の整理

前述の通り、薬の影響を除外するために「お薬手帳」は必須です。 また、過去にかかった病気(脳卒中、頭部外傷、甲状腺の病気など)の情報も重要です。これらは認知機能に影響を与える可能性があるからです。

準備③ 「プライド」への配慮

これが一番難しいかもしれません。 「ボケの検査に行こう」と誘って、素直に行く方は稀です。ご本人の自尊心を傷つけない誘い方を工夫しましょう。

  • 「健康診断の一環として」: 「区の健康診断のついでに、脳のチェックもセットになっているみたいだよ」
  • 「家族の安心のために」: 「お母さんが元気でいてくれると私が安心だから、一度付き合ってくれない?」
  • 「かかりつけ医の勧め」: (事前に医師に相談しておき)医師から「年齢的にも一度チェックしておきましょうか」と切り出してもらう。

5. 検査を受けた後の流れ:結果をどう活かすか

スクリーニング検査の結果が出た後、どのような道のりが待っているのでしょうか。

疑いがある場合:確定診断へ

スクリーニング検査で点数が基準を下回った場合、より詳細な検査へ進みます。

  • 画像検査(MRI・CT・SPECT): 脳の形を見て「海馬(記憶の司令塔)」が萎縮していないか(アルツハイマー型の特徴)、脳梗塞の跡がないか(血管性の特徴)などを確認します。
  • 血液検査: 甲状腺機能低下症やビタミンB欠乏症など、治療可能な原因がないかを調べます。

診断がついた場合:治療とケアの開始

「認知症」と診断されたとしても、それは「終わり」ではありません。「これからの生活をどう守るか」を考えるスタートラインです。

  • 薬物療法: 進行を緩やかにする薬(コリンエステラーゼ阻害薬など)の使用を検討します。
  • 介護サービスの利用: 介護保険の申請を行い、ケアマネジャーと相談して、デイサービスやヘルパーなどの利用計画を立てます。

異常なし(またはグレーゾーン)の場合:予防と観察

現時点では認知症レベルではない、と判断された場合でも、油断は禁物です。 MCI(軽度認知障害)の段階であれば、運動や食事、知的活動などの生活習慣を見直すことで、認知症への移行を防いだり、遅らせたりすることが期待できます。 「今の状態がわかってよかった」と捉え、定期的なチェックを継続しましょう。


まとめ

認知症スクリーニング検査について、ご理解いただけましたでしょうか?

  1. 検査は怖くない: あくまで現状を知るための「ものさし」です。
  2. 点数が全てではない: 薬や体調、難聴などが影響することを忘れずに。
  3. 家族の情報が命: 「普段の様子」のメモが、医師の診断を助けます。

認知症は、早期に発見できれば、薬で進行を遅らせたり、環境を整えることで穏やかに暮らしたりする時間が長く作れます。 逆に、発見が遅れれば、対応が後手になり、ご本人もご家族も混乱の中で苦しむことになりかねません。

検査は、「これからの親の人生と、家族の生活を守るための作戦会議」の第一歩です。 もし不安があれば、まずはお近くの「地域包括支援センター」や、かかりつけの薬剤師に相談してみてください。


参考文献・出典

  • 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」(2017年発行)
  • 厚生労働省「知っておきたい認知症の基本」(2023年確認)
  • 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(2015年発行)
  • Folstein MF, et al. “Mini-mental state”. J Psychiatr Res. 1975.(MMSE原著)
  • Imai Y, Hasegawa K. “The revised Hasegawa’s Dementia Scale (HDS-R)”. 1994.(長谷川式原著)

※本記事は2026年2月時点の情報に基づき執筆しています。医学的判断が必要な場合は、必ず専門医にご相談ください。不明な点は「確認できません」と正直にお伝えし、推測での断定は避けております。

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