認知症の方の動けない(サルコペニア)を防ぐ!薬剤師が教える食事と運動の工夫

在宅

「以前は自分でトイレに行けたのに、最近は億劫がって……」 「食欲が落ちて、ひと回り小さくなった気がする」

薬局の窓口や訪問の現場で、介護をされているご家族や施設のスタッフさんから、このような不安な声を耳にすることが増えました。認知症の方のケアにおいて、「動けなくなること」への不安は非常に大きいものです。

動かなくなると筋肉は急速に衰え、さらに動けなくなるという悪循環に陥ります。これは単なる老化現象ではなく、「サルコペニア(加齢による筋肉量の減少と筋力の低下)」が進行しているサインかもしれません。

私は20年、薬剤師として多くの患者さん、そしてそのご家族と関わってきました。認知症ケアの現場では、お薬の管理だけでなく、食事や運動といった生活全般の工夫が、ご本人のQOL(生活の質)を維持するために不可欠だと痛感しています。

本記事では、認知症の方に忍び寄る「サルコペニア」のリスクと、それを防ぐために明日からできる栄養・運動の具体的な工夫について、現場の事例を交えてお伝えします。介護の負担を少しでも軽くし、ご本人の笑顔を守るヒントになれば幸いです。


1. なぜ認知症だと筋肉が減りやすい?意外な原因とリスク

認知症が筋力低下を進める「負の連鎖」

サルコペニアとは、筋肉の量と質が低下し、身体機能が衰える状態のこと。認知症の方は、そうでない方と比べて、このサルコペニアが進行しやすい傾向にあります。

なぜでしょうか?主な原因は以下の通りです。

  • 活動量の減少: 意欲の低下や、外出への不安から、家に閉じこもりがちになります。
  • 食欲の低下・偏り: 認知機能の低下により、食事への関心が薄れたり、味覚が変わったりします。
  • 嚥下(えんげ)機能の低下: 飲み込む力が弱くなり、食事量が減ったり、むせやすくなったりします。

ここに、薬剤師としてもう一つ付け加えたいのが「お薬の影響」です。 例えば、一部の認知症治療薬や精神安定剤の副作用で、食欲が落ちたり、ふらつきやすくなって活動量が減ったりすることがあります。「最近、急に元気がなくなったな」と感じたら、お薬が影響している可能性もゼロではありません。

サルコペニアが招く、さらなるリスク

筋肉が減ると、転倒や骨折のリスクが高まるだけではありません。「動けない」ことが、認知症の症状そのものを悪化させる要因にもなり得ます。

以前、デイサービスで関わった80代の男性は、転倒して骨折した後、「また転ぶのが怖い」と外出を避けるようになりました。半年後にお会いした時、筋肉はすっかり落ち、会話も減り、認知症の症状が進んだように見受けられました。

筋力を維持することは、身体の健康だけでなく、脳の健康を守ることにも直結しているのです。

2. 薬剤師が提案!「食べる力」を支える栄養の工夫

筋力維持の基本は、やはり食事です。特に重要な栄養素とその摂り方のコツを紹介します。

① 筋肉の材料「タンパク質」は「ちょい足し」で確保

高齢者は、若年層よりも多くのタンパク質を必要とします(体重1kgあたり1.0g以上が目安。体重50kgなら1日50g)。しかし、お肉やお魚をたくさん食べるのは大変です。

そこで、いつもの食事に手軽にプラスできる工夫がおすすめです。

  • 朝食のパンに: チーズをのせる、ゆで卵を添える、ヨーグルトをプラスする。
  • お味噌汁に: 豆腐を多めに入れる、卵を落とす。
  • 常備菜に活用: ツナ缶、サバ缶、大豆の水煮などは、手軽に使えて優秀なタンパク源です。
  • 間食に: プリンやゼリーの代わりに、タンパク質入りのヨーグルトやチーズを。

噛む力や飲み込む力が弱い方には、ひき肉を使った料理や、卵豆腐、茶碗蒸しなど、口当たりの良いメニューを選びましょう。市販の「介護食(やわらか食)」を活用するのも一つの手です。

② 食欲がない、飲み込めない時の助っ人

食事量がどうしても確保できない時は、無理強いせず、高栄養の補助食品を活用しましょう。 薬局やドラッグストアには、少量で高カロリー・高タンパクが摂取できるゼリー飲料やドリンクが販売されています。

【薬剤師からのワンポイント】 栄養補助食品の中には、お薬との飲み合わせに注意が必要なものもあります(例:特定のお薬と相性の悪いビタミンが含まれているなど)。導入する際は、かかりつけの医師や薬剤師に一言相談してくださいね。

③ 見逃しがちな「ビタミンD」と「水分」

  • ビタミンD: 筋肉の働きを助け、骨を強くします。鮭やサンマなどの魚類、干し椎茸に多く含まれます。また、日光を浴びることで体内でも作られます。窓際でのひなたぼっこや、ベランダで少し外の空気を吸うだけでも効果があります。
  • 水分補給: 脱水は筋肉の機能を低下させ、意識障害(せん妄)の原因にもなります。認知症の方は喉の渇きを感じにくいため、「お茶の時間ですよ」と時間を決めて、こまめな水分摂取を促しましょう。

ある施設では、入居者様の水分摂取が進まない時、味のない水ではなく、スポーツドリンクを少し薄めたものや、風味のあるお茶に変えたところ、飲んでくれる量が増えたという事例がありました。

3. 生活の中でできる!無理のない「動き」の取り入れ方

「運動しましょう」と声をかけても、なかなか腰が上がらないのが現実です。特別な運動の時間を作るのではなく、日常生活の中に「動き」を取り入れる視点が大切です。

日常生活動作(ADL)をリハビリに変える

  • 家事のお手伝い: 洗濯物をたたむ、食器を拭く、テーブルを拭く。これらも立派なリハビリです。「○○さん、手伝ってくれると助かるわ」と役割をお願いすることで、意欲を引き出せることがあります。
  • トイレへの移動: 可能な範囲で、ご自身の足でトイレまで歩くことも大切な運動です。安全確保のため、手すりの設置や見守りは欠かせません。
  • 座ってできる運動: テレビを見ながら足首を回す、足踏みをする、クッションを膝に挟んで力を入れるなど、座ったままでもできることはあります。

楽しみとセットにする「魔法の声かけ」

「運動=つらいもの」と感じている方には、ご本人の好きなことと結びつけた声かけが効果的です。

私が関わった将棋好きの男性は、散歩を嫌がっていましたが、「少し歩いて、頭をすっきりさせてから将棋を指しましょうか」と声をかけると、スムーズに動き出してくれるようになりました。

「お花の水やりに行きませんか?」「郵便ポストを見てきてくれませんか?」など、生活の一部としての自然な声かけを試してみてください。

認知症予防にもなる「コグニサイズ」

国立長寿医療研究センターが開発した、頭の体操と運動を組み合わせた「コグニサイズ」も有効です。

  • : 足踏みをしながらしりとりをする、歩きながら簡単な計算をする。

最初は難しく感じるかもしれませんが、ゲーム感覚で楽しむことが継続のコツです。失敗しても笑い合えるような雰囲気が大切です。

4. 一人で抱え込まないで。「連携」が介護を楽にする

食事の工夫も、運動の声かけも、ご家族や現場のスタッフだけで抱え込むには限界があります。そんな時こそ、専門家を頼ってください。

薬剤師もチームの一員です

私たち薬剤師は、ただ薬を渡すだけではありません。

  • 「最近、食欲が落ちているみたい」
  • 「薬が飲みにくそう」
  • 「便秘がちで困っている」

こういったご相談から、お薬の変更を医師に提案したり、食事の工夫や市販薬の活用についてアドバイスしたりすることができます。残薬(飲み残しの薬)の確認で訪問した際に、冷蔵庫の中身を見せていただき、食事のアドバイスをしたこともあります。

多職種で支える仕組みを活用しよう

介護保険サービスを利用している場合、ケアマネジャーを中心としたサービス担当者会議が開かれます。 そこで、「食事が進まない」「歩くのが不安定」といった悩みを具体的に伝えてください。

  • 管理栄養士が、ご本人の状態に合わせた具体的な食事内容や栄養補助食品を提案してくれます。
  • 理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が、安全な介助方法や、生活の中でできるリハビリメニューを教えてくれます。

それぞれの専門家が知恵を出し合うことで、介護の負担は確実に軽くなります。

まとめ

認知症の方のサルコペニア予防は、一朝一夕にはいきません。しかし、日々の食事での「ちょい足し」や、生活の中での「小さな動き」の積み重ねが、筋肉を守り、ご本人が自分らしく過ごせる時間を延ばすことにつながります。

「完璧にやらなきゃ」と気負う必要はありません。今日のお味噌汁に卵を一つ落とす、トイレまでの道のりを一緒にゆっくり歩く。そんな小さなことから始めてみませんか?

そして、困ったときは、私たち薬剤師を含め、周りの専門家をどんどん頼ってください。みんなで支え合うことが、ご本人にとっても、介護する皆様にとっても、一番の力になります。


この記事の執筆者

orengiironoyakuzaishi(オレンジ色の薬剤師) 調剤薬局勤務歴20年のベテラン薬剤師。これまでに調剤、服薬指導、在宅訪問など、地域医療の最前線で活動。認知症サポーター養成講座の講師(キャラバンメイト)としての活動や、多職種連携会議への参加経験も豊富。薬の専門家としての視点に加え、介護現場のリアルな悩みに寄り添う情報発信を心がけている。


出典・参考文献

  • 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診断基準(2016)」
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
  • 国立長寿医療研究センター「認知症予防に向けた運動『コグニサイズ』」
  • 日本老年医学会「フレイル・サルコペニア診療ガイドライン2024」

※個々の症状や体調については、かかりつけの医師や専門家にご相談ください。 ※記事内の事例は、プライバシー保護のため一部内容を加工しています。

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※とろみの強さは、ご本人の飲み込む力に合わせて調節してくださいね👇

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