【多職種連携の第一歩】薬剤師が「認知症の人と家族の会」に参加して見えた、教科書にないケアの形

認知症

はじめまして、薬剤師のレンジです。

今回は、私自身が実際に参加してきた「公益社団法人 認知症の人と家族の会」の定例会(つどい)についての体験レポートをお届けします。

この記事は、以下のような悩みを持つ方に向けて執筆しました。

  • 薬剤師・医療従事者の方:
    • 「多職種連携(他職種との協力)」が重要と言われるが、具体的にどう動けばいいか分からない。
    • 薬局・病院の外に出て、地域活動に参加する勇気がない。
  • 認知症の方のご家族・介護者の方:
    • 「家族の会」に行ってみたいけれど、どんな雰囲気か分からず不安。
    • 専門職の人がいると緊張してしまうのではないか。

結論から申し上げます。 「認知症の人と家族の会」は、家族が悩みを吐き出すだけの場所ではありません。そこは、医療・介護のプロフェッショナルと当事者が「対等な立場」で対話し、教科書には載っていない解決策(ヒント)が見つかる「生きたケア」の現場でした。

この記事を読み終える頃には、あなたの「参加してみようかな」という迷いが、「次の開催日はいつだろう」という期待に変わっているはずです。


目次

  1. 【結論】なぜ今、薬剤師が「家族の会」に行くべきなのか
  2. 初めての参加レポート:会場のリアルな空気感
  3. 参加して分かった!「家族の会」の3つの機能
  4. 【深掘り】多職種連携の現場としての「つどい」
  5. ご家族へ:専門職が参加しているメリットとは?
  6. 参加するための具体的なステップ
  7. さいごに ― 薬局の外にこそ、本当の答えがある

1. 【結論】なぜ今、薬剤師が「家族の会」に行くべきなのか

私が今回の参加を通じて痛感した結論は、「患者さんの『生活』を知らずして、最適な薬物治療は提案できない」ということです。

私たち薬剤師は、普段カウンター越しや投薬台越しに患者さんと接します。しかし、それは患者さんの生活のほんの一部、「点」でしかありません。 「家族の会」に参加することで、その「点」が「線」や「面」になり、患者さんが抱える本当の困りごとが見えてきます。

理由:数字で見る「孤立」と「連携」の必要性

厚生労働省の推計によると、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。認知症ケアにおいて、家族介護者の負担軽減は喫緊の課題です。 しかし、現場では「薬が飲めていない」「副作用が出ているのに気づかない」といった問題が、医療従事者に届く前に家庭内で埋もれてしまうケースが多々あります。

この「埋もれた声」を拾い上げる場所こそが、「認知症の人と家族の会」なのです。


2. 初めての参加レポート:会場のリアルな空気感

では、実際に私が参加した日の様子を、時系列で詳しくレポートします。

参加のきっかけ

地域の地域包括支援センター(ちいきほうかつしえんセンター)の方から、「今度、認知症のお薬についての勉強会があるから、レンジさんも来てみない?」と誘われたのがきっかけでした。 ※地域包括支援センターとは:高齢者の暮らしを地域で支えるための「よろず相談所」のような場所です。

会場の構成と参加者層

会場は市民センターの一室。パイプ椅子が並べられた堅苦しい講義形式ではなく、いくつかのテーブルを囲んで座るスタイルでした。

【当日の参加者内訳(約20名)】

  • 認知症のご本人: 3~4名
  • ご家族(介護者): 4名
  • 運営スタッフ(世話人): 4名
  • 専門職(医療・介護): 12名ほど
    • 内訳:薬剤師4名、看護師4名、ケアマネジャー等

驚いたのは、専門職の多さです。「家族の会」という名前ですが、実際には地域の熱心な医療・介護従事者が、「もっと現場の声を聞きたい」と学びに来ているケースが多いのです。

プログラムの流れ

集まり(つどい)は、大きく分けて2部構成でした。

前半:ミニ講義(約40分) テーマは「認知症と高齢者の薬」。 ここでは薬剤師が講師となり、貼り薬の使い方や、飲み忘れ防止の工夫について話がありました。専門用語(例えば「残薬調整」など)を使わず、「家に薬が余っていませんか?」と優しく問いかけるスタイルが印象的でした。

後半:グループトーク(交流会・約60分) ここがメインイベントです。講師の話を受けて、それぞれのテーブルで感想や悩みを話し合います。 私が座ったテーブルには、認知症のご本人(80代男性)、その奥様、ケアマネジャー、そして私(薬剤師)がつきました。家族会の職員がファシリテーターとなって、認知症のご家族、ご本人に「最近の出来事」など軽い会話から、悩みや不安など引き出し、同じテーブルの専門職に話を広げていく。誰か一人に発言が偏らないように、ファシリテーターの方が話を振っていってくれます。緊張感というよりは、気軽に、笑顔がでるような和やかな雰囲気で話し合いは行われていました。


3. 参加して分かった!「家族の会」の3つの機能

実際に参加して感じた、この会の持つ重要な3つの機能をご紹介します。

① 「共感」という最強のケア

認知症介護は、時に孤独です。「同じことを何度も聞かれてイライラしてしまう」「優しくなれない自分を責めてしまう」。そんな本音を、ここでは誰も否定しません。 「わかる、うちもそうだったよ」「大変だよね」 その一言で、ご家族の表情がスッと緩む瞬間を何度も見ました。共感こそが、心を軽くする最初の処方箋なのです。

② 「情報」の宝庫

ネットで検索すれば「認知症の症状」は出てきます。しかし、「徘徊(はいかい)※1 しそうになった時、どう声をかけるとうまくいくか」「この地域のデイサービスで、認知症対応が良いのはどこか」といった生きた情報(口コミ)は、ここでしか手に入りません。 ※1 徘徊:目的もなく歩き回っているように見えること。本人には何らかの目的や理由があることが多いです。

③ 「専門職」とのカジュアルな相談

病院の診察室では、医師や薬剤師に「こんな些細なこと聞いていいのかな?」と遠慮してしまいがちです。 しかし、ここではお茶を飲みながら、隣に座っている専門職に気軽に質問できます。これが、早期の問題解決につながります。


4. 【深掘り】多職種連携の現場としての「つどい」

ここからは、特に薬剤師や医療従事者の方に向けて、この場がいかに「多職種連携」の学び舎であるかを深掘りします。

実際のグループトークで、あるご家族からこんな悩みが出ました。

ご家族(妻): 「夫は薬を飲むのを嫌がるんです。『毒を盛られている』って言って、吐き出してしまうこともあって…」

この悩みに対し、その場で「多職種連携」が自然発生しました。

  1. 【ケアマネジャー】の視点: 「デイサービスに行く前の時間は機嫌が良いことが多いですよね。服薬のタイミングを朝食後ではなく、デイに行く直前にずらすのはどうでしょう?」
  2. 【看護師】の視点: 「もしかしたら、錠剤が大きくて飲み込むのが怖いのかもしれませんね。嚥下(えんげ:飲み込み)の状態を確認してみましょうか」
  3. 【薬剤師(私)】の視点: 「それなら、主治医に提案して、錠剤を粉砕(粉にする)したり、貼るタイプのお薬に変更できるか相談してみましょう。飲み込む負担が減れば、拒否感が減るかもしれません」

結果: この連携プレーにより、「ただ薬を飲ませる」のではなく、「飲むタイミングを変え、形状を変える」という具体的な解決策がその場でまとまりました。 これは、薬局の中に閉じこもっていたら絶対にできなかった提案です。

専門職の方へ伝えたいこと: 多職種連携とは、会議室で行う堅苦しい会議だけではありません。こうした市民活動の場で、それぞれの専門知識を持ち寄って、目の前の人の困りごとを解決する。これこそが、本質的な連携ではないでしょうか。


5. ご家族へ:専門職が参加しているメリットとは?

「専門職の人がたくさんいると、監視されているようで緊張する」 そう思われるご家族もいらっしゃるかもしれません。

しかし、私たち専門職が参加している理由は、決して「指導するため」ではありません。「教科書通りにいかない現実を知るため」に参加しています。 私たちは、皆さんの「うまくいかない体験談」を聞きたいのです。それが、明日からの私たちの業務改善につながるからです。

また、会場に医療者がいることで、万が一ご本人の体調が変化した際や、興奮してしまった際にも、医学的な視点で冷静にサポートができます。これは「安心材料」として捉えていただければと思います。


6. 参加するための具体的なステップ

「行ってみたい」と思った方へ、具体的なアクションプランを提示します。

ステップ1:情報を探す

最も確実なのは、お住まいの地域の「地域包括支援センター」に問い合わせることです。「認知症の家族会に参加したい」と伝えれば、最寄りの開催場所や日時を教えてくれます。 また、「認知症の人と家族の会 + (都道府県名)」で検索すると、各支部のホームページが見つかります。

ステップ2:問い合わせる

基本的には予約不要な場合が多いですが、初回は電話一本入れておくと安心です。「初めてなんですが、見学してもいいですか?」と伝えれば、当日はスタッフが温かく迎えてくれます。

ステップ3:手ぶらでOK

特別な準備は必要ありません。メモを取りたければ筆記用具程度で十分です。お茶代として数百円程度の参加費がかかる場合があります。


7. さいごに ― 薬局の外にこそ、本当の答えがある

私が参加して確信した事実は、「認知症ケアの主役は、薬でも制度でもなく『人と人とのつながり』である」ということです。

薬は症状を和らげる道具に過ぎません。その道具をどう使い、どう生活に組み込むか。その答えは、診察室ではなく、ご本人とご家族の日々の暮らしの中にあります。

薬剤師の皆さん、白衣を脱いで、街へ出ましょう。 ご家族の皆さん、一人で抱え込まず、その荷物を少しだけ私たちに持たせてください。

「認知症の人と家族の会」は、そのための最初の一歩を踏み出せる、とても温かい場所でした。 次回はあなたも、その輪の中に加わってみませんか?


出典・参考資料

  • 公益社団法人 認知症の人と家族の会 公式ウェブサイト(最終閲覧:2025年8月1日)
  • 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(2019年6月18日)
  • 筆者実体験に基づく現地取材(2025年7月実施)

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