はじめに ~不安からはじまった家族の介護の一歩~
「親が認知症になったかもしれない…病院でそう診断されました。でも、どこへ相談すればいいのか、誰に相談すれば安心なのか、何から始めればいいのか、全くわからず、夜も眠れないほど不安でした。」
毎日のように薬局のカウンター越しに、こうしたご家族からの切実な声をお聞きします。私、「オレンジ色の薬剤師」ことレンジも、これまで数多くの患者さんとそのご家族の不安に寄り添ってきました。親が認知症になったと知ったとき、頭が真っ白になるのは当たり前のことです。
本記事では、こうした患者さんご家族の実際の体験をもとに、「認知症と診断されたら、結論としてどこに相談すればいいのか」を中心に、地域資源(地域にある助け合いの仕組み)や介護制度の利用方法についてわかりやすくまとめました。
介護に慣れていない方、そしてご家族として初めて介護と向き合う方に、「まずはここへ行けば大丈夫」という明確な道しるべをお渡しします。ぜひ最後まで読んで、安心への第一歩を踏み出してください。

1. 結論:認知症と診断されたら、まずは“誰に”“どう相談する”べきか?
結論からお伝えします。認知症と診断されたら、絶対に一人で抱え込まず、「病院の地域連携室」か「地域包括支援センター」の専門家に一番に相談してください。
理由は明確です。介護の制度は非常に複雑であり、専門家のナビゲートなしで進めるのは、地図を持たずに見知らぬ山に登るのと同じくらい危険で負担が大きいからです。ご家族だけで抱え込むと、身体的にも精神的にも限界を迎え、共倒れになるリスクが高まります。
厚生労働省の推計によると、2040年には約584万人が認知症高齢者数になると言われています(厚生労働省)。つまり、認知症は誰にでも起こりうる非常に身近なものです。だからこそ、国や地域にはあなたを助けるための窓口がすでに用意されているのです。
具体的に、以下の2つの窓口のどちらかにアクションを起こしましょう。

1-1. 病院の「地域連携室」へ介護相談をお願いする
病院で認知症と診断された場合、多くの大きめの医療機関には「地域連携室(ちいきれんけいしつ)」と呼ばれる部署が設置されています。
※地域連携室とは: 退院後の生活や介護の不安について、ソーシャルワーカー(福祉の相談援助の専門家)などが相談に乗ってくれる病院内の窓口のことです。
診断を受けた後、医師や看護師に「今後、家でどのように支援を受けたらいいか不安です」と伝えてみてください。そこから地域連携室へつないでもらい、お住まいの地域の地域包括支援センターやかかりつけ医、ケアマネジャー(介護支援専門員)へ橋渡ししてもらえることが多々あります。
【事例】
私の薬局に来られたある患者さんのご家族は、診断直後に地域連携室へ「これから在宅でどんな支援が受けられるのか知りたい」と相談しました。すると、ソーシャルワーカーがその日のうちに地元の地域包括支援センターへ連絡を取ってくれ、スムーズに初回の面談へ進むことができました。病院と地域が連携することで、不安な期間を1日でも短くすることができるのです。
1-2. 家族が直接「地域包括支援センター」へ連絡する
「病院では何も案内されなかった」「小さなクリニックで診断された」という場合は、ご家族が自分で直接「地域包括支援センター」へ連絡することができます。
※地域包括支援センターとは: 高齢者の暮らしを地域でサポートするための「総合相談窓口」です。各市町村に設置されており、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門家がチームで対応してくれます。
地域包括支援センターは、「高齢者ご本人とその家族」、あるいは「生活に困りごとのある方」ならどなたでも無料で相談できます。インターネットでお住まいの「市区町村名 + 地域包括支援センター」で検索すれば、担当の窓口の電話番号がすぐにわかります。電話での相談対応から始まり、後日、センターでの面談やご自宅への訪問で支援内容を整理してもらえます。「最初はどうなることかと思ったけれど、親身に話を聞いてもらえて本当に心強かった」という声も多く寄せられています。
2. 地域包括支援センターの「できること」と「相談できる人」
なぜ地域包括支援センターがこれほど心強い味方になるのでしょうか。その理由は、彼らが「介護の入り口」をすべてカバーしてくれるからです。
2-1. 相談の対象は「家族」も含まれます
地域包括支援センターには、ご本人のみならず、ご家族も相談できるシステムが整っています。認知症のご本人は「自分はどこも悪くない」と受診や相談を拒否することも少なくありません。そんなときでも、ご家族だけで相談に行って構わないのです。
【事例】
親の徘徊(目的もなく歩き回ること)が始まり、うろたえていた患者さんのご家族がいました。センターの相談員から「介護は絶対に一人で抱え込まないでください。まずはご家族であるあなたの不安を、ひとつずつ整理しましょう」と言っていただき、精神的に深く救われたそうです。
2-2. 具体的に相談できる4つの内容

地域包括支援センターでは、主に以下の相談が可能です。
- 介護保険サービス利用のアドバイスや申請手続きの支援介護保険を使うための「要介護認定(ようかいごにんてい:介護がどれくらい必要かの判定)」の申請手続きを手伝ってくれます。
- 認知症の人向け支援の案内「家族会(同じ悩みを持つ家族の集まり)」や「認知症サポーター講座」など、地域で開催されているサポートの情報を教えてくれます。
- 虐待や権利擁護(けんりようご)に関する相談お金の管理ができなくなった際の「成年後見制度(せいねんこうけんせいど:代わりにお金を管理してくれる制度)」の利用支援や、悪徳商法の被害防止などの相談に乗ってくれます。
- 介護・福祉・医療の調整や案内ご家庭の状況に合わせて、どのようなサービスを組み合わせれば生活が成り立つかを一緒に考えてくれます。
ご家族もこの相談を通じて、「今、何をすればいいか」「次にどう動けばいいか」がはっきりします。見通しが立つだけで、気持ちは驚くほど楽になります。
3. 制度化されたサービスと、地域の“柔らかい手”を組み合わせる
相談窓口に繋がった後は、具体的な支援の仕組みを作っていきます。ここでは「介護保険制度」と「医療・薬剤師のサポート」を両輪で回していくことが結論となります。理由は、どちらか一方だけでは在宅生活を安全に続けることが難しいからです。
3-1. 介護保険制度をフルに活かす
要介護認定を受けると、「ケアマネジャー(介護の計画を立ててくれる専門家)」を担当につけることができます。ケアマネジャーが作成する「ケアプラン(介護の計画書)」に沿って、様々なサービスを1〜3割の自己負担で利用できます。
- 訪問介護(ホームヘルパー): 自宅に来て食事や排泄、入浴を手伝ってくれる。
- デイサービス(通所介護): 日帰りで施設に通い、食事や入浴、レクリエーションを行う。
- ショートステイ(短期入所): 数日から数週間、施設に宿泊して介護を受ける(家族の休息にも使われます)。
【事例】
毎日介護にかかりきりだったご家族が、週に3回のデイサービスと、週に2回のホームヘルパーを導入しました。その結果、家族が自分の時間を持てるようになり、負担が大きく減って生活リズムが整いました。介護保険は「親のため」だけでなく「家族の生活を守るため」の制度なのです。
3-2. 医療と薬剤師の視点での強力なサポート
「認知症と診断されたけど、薬がちゃんと飲めるか心配…」
実は、認知症になると服薬の管理が極端に難しくなることが非常に多いです。薬を飲んだことを忘れて何度も飲んでしまったり、全く飲まなくなってしまったりします。
そこで、私たち「薬剤師」を頼ってください。 理由として、薬剤師には医師の指示のもとでご自宅へ訪問し、お薬の管理をサポートする「居宅療養管理指導(きょたくりょうようかんりしどう:訪問薬剤管理指導)」という制度があるからです。
オレンジ色の薬剤師・レンジが特におすすめする活用法は以下の通りです。
- 一包化(いっぽうか): 朝・昼・夕に飲む複数の薬を、1回分ずつ1つの袋にまとめること。袋に「〇月〇日 朝」と印字することで飲み間違いを防ぎます。
- 服薬カレンダー・お薬ボックスの活用: 壁掛けカレンダーのポケットに薬を入れることで、飲んだかどうかが一目でわかります。
- 薬剤師の訪問: 定期的に薬剤師がご自宅を訪問し、薬カレンダーに薬をセットしたり、体調の変化を確認して医師やケアマネジャーに報告したりします。
【事例】
薬の飲み忘れが原因で体調を崩しがちだった高齢者の方が、薬剤師の訪問サポートと服薬カレンダーを導入しました。重複投薬(同じ薬を何度も飲むこと)がなくなり、体調が安定。ご家族も「薬のことで毎日怒らなくて済むようになった」と安心されていました。
4. インフォーマル資源(地域の助け合い)の活用とその限界
介護保険などの公式な制度(フォーマルサービス)だけでなく、地域に根ざした独自の助け合いの仕組みを「インフォーマル資源」と呼びます。
地域のボランティアが運営するサロン、町内会の見守り活動、民間の配食サービスなどがこれに当たります。近所のサロンに参加することで顔見知りが増え、「誰かがいつも見守ってくれている」と感じることができ、ご本人もご家族も孤独感が軽減されるという大きなメリットがあります。
ただし、注意すべきは、こうした支援には「限界がある」という事実を知っておく必要があります。
その理由は、インフォーマル資源はボランティア主体であることが多く、担い手の高齢化や人手不足により、毎日確実にサービスが提供されるとは限らないからです。また、地域によってサービス内容に大きなばらつきがあります。
「急にサロンがお休みになった」「配食サービスが終了してしまった」という事態が起こり得ます。一部の状況では、インフォーマル資源についての確実な継続性は確認できません。
だからこそ、これらだけに頼り切るのではなく、「正式な介護保険制度」を主軸としつつ、インフォーマル資源を補助的な「両輪」としてうまく取り入れることが最も大切です。
5. まとめ:「相談の窓口」を意識することで未来の見通しは変わる

親の認知症診断から、実際に地域の支援につながるまでの間、「どこへ相談すればいいかわからず、ずっと暗闇を手探りで歩いているようだった」という経験をされている方は決して少なくありません。
しかし、地域包括支援センターや病院の地域連携室の存在を知り、そこに相談したことで、安心感が得られただけでなく、「次に何をすべきか」という道筋がはっきりと見えてきます。
在宅介護を乗り切るための土台となる大切なポイントを以下の表にまとめました。
| ステップ | やるべきこと・窓口 | 得られる結果・目的 |
| 1 | 病院(地域連携室)への相談 | 介護支援につながる確実な一歩目(橋渡し)を設けてもらう |
| 2 | 家族自身の連絡 | 地域包括支援センターへ直接相談し、何より先にご家族の不安を整理する |
| 3 | ケアマネジャーの選定 | ケアプランに沿って、訪問介護やデイサービスなどの介護保険制度を利用する |
| 4 | 服薬・医療との連携 | 薬剤師による訪問(一包化や服薬カレンダーなど)、医療面を含めた安全な体制を整える |
| 5 | インフォーマル資源の併用 | 地域の見守りやサロンなど、温かい地域の支援を追加し孤立を防ぐ |
病院での症状説明が終わった後、「誰とどうつなぐか」が明確になること。
ご家族が思い切って専門機関(地域包括支援センターなど)に相談の電話をかけること、すべてはそこから始まります。
私たち薬剤師も、ケアマネジャーも、地域包括支援センターのスタッフも、みんなであなたとご家族を支えるチームです。決して一人ではありません。まずは、一本の電話から始めてみませんか?
【出典一覧・参考資料】
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
- 厚生労働省「地域包括支援センターの業務」
- 厚生労働省 認知症施策(2025年における高齢者の認知症推計に関する資料など)
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