認知症の不穏・転倒は便秘が原因?薬剤師が教える正しい解消法

生活支援

こんにちは。オレンジ色の薬剤師です。調剤薬局で20年、多くの認知症患者さんとそのご家族、そして介護現場の声を聞いてきました。薬剤師としての調剤や監査、投薬といった基本業務はもちろん、学術発表、新入社員研修講師、多職種連携会議、認知症サポーター養成講座(キャラバンメイト)など、多岐にわたる活動に携わってきた。

多くの現場を見てきた私だからこそ、お伝えできることがある。「認知症介護は大変だ」と誰もが言う。しかし、その大変さの一部、特にご本人の不穏な行動や、防げたはずの転倒事故の原因が、実は「たかが便秘」にあるとしたら、どうでしょうか。

今回は、認知症介護において非常に重要でありながら、見落とされがちな「便秘」のリスクについて、薬剤師の視点からその真実と、すぐに現場で使える実践的な対策を、プロのブロガーとして徹底的に解説します。


第1章:介護現場を揺るがす「便秘」という隠れたリスク

「お通じがない」ということ以上に、認知症の方にとって便秘は深刻な問題です。それはなぜか。2つの大きなリスクが存在するからです。

1. BPSD(周辺症状)の引き金

認知症、特にレビー小体型認知症の方は、自律神経(内臓の動きを調節する神経)の働きが乱れやすく、非常に高い確率で頑固な便秘を合併します。

しかし、認知症が進むと「お腹が張って苦しい」「排便したい」という感覚を言葉でうまく伝えられない。その慢性的な不快感がストレスとなり、BPSDと呼ばれる徘徊、興奮、妄想などを引き起こす大きな原因の一つになります。

現場のエピソード

数日間便秘が続いていた患者さんが、排便を助ける処置をした直後に、それまでの不穏な行動がピタッと収まったケースを何度も見てきた。ご家族や介護職員の方は、「お腹が痛かったんだね、ごめんね」と涙ぐまれます。「薬を増やす前に、まず排便」が介護の鉄則です。

2. 「転倒・骨折」の隠れた原因

介護現場で最も避けたい事故の一つが転倒です。実は、慢性的な便秘は、高齢者の転倒リスクを直接的に高めます。

  • トイレ回数の増加と焦り: 便意はあるのに出し切れない(残便感)ため、何度もトイレに行こうとします。認知症の方は、自分の歩行能力を過信して一人で立とうとしたり、焦って動こうとしてバランスを崩し、転倒します。
  • 排便時の「いきみ」による血圧変動: 硬い便を出そうと強く「いきむ」と、血圧が急上昇します。排便が済むと今度は血圧が急低下し、脳への血流が一時的に不足。トイレから立ち上がった瞬間に立ちくらみ(起立性低血圧)を起こし、意識を失うように倒れるケースは非常に多いです。
  • 注意力の低下: 常に腹部に不快感がある状態は、認知症の方の注意力をさらに散漫にします。足元の段差や障害物に気づきにくくなり、つまずいて転倒します。

第2章:なぜ高齢者は便秘になりやすいのか?

そもそも、何日出なければ便秘なのでしょうか。

一般的には「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」を指します。毎日出ていても、コロコロして出しにくかったり、残便感があったりすれば、それは立派な便秘です。

特に高齢者の場合、複数の要因が絡み合っています。

  1. 脱水: 喉の渇きを感じにくくなり、水分摂取が不足。
  2. 筋力低下: 腹圧をかけるための筋力が低下し、便を押し出す力が弱い。
  3. 注意が必要な薬: 良かれと思って飲んでいる薬が、腸の動きを止めていることがあります。

注意が必要!便秘を引き起こす代表的な薬

これらは必要な薬であることも多いため、服用を始めてから便秘が悪化した場合は自己判断で止めず、必ず主治医や薬剤師に相談してください。

  • 抗コリン薬(頻尿の薬、一部の風邪薬や胃薬、抗うつ薬など):腸の動きを止めます。
  • 抗ヒスタミン薬(アレルギー薬):腸の動きを止めます。
  • 強い痛み止め(麻薬系鎮痛薬など):腸の動きを強力に抑制します。
  • 一部の血圧の薬(カルシウム拮抗薬):腸の筋肉を緩めすぎて動きを悪くします。
  • 抗精神病薬安定剤(気分を落ち着かせる薬):副作用として腸の動きを低下させます。

第3章:薬剤師が教える、介護で使える「便秘対策」4つの心得

では、具体的にどう対応すればよいのでしょうか。日常生活でできることから始めましょう。

1. 水分摂取と「とろみ」の盲点

脱水は便秘の天敵。しかし、嚥下(飲み込み)障害がある方に使うとろみ剤には注意が必要です。とろみ剤自体が水分を抱え込み、腸での水分吸収を阻害して便を硬くしてしまう側面があるため、使用時は通常より多めの水分補給を意識してください。

2. 食事の工夫

食物繊維(野菜、海藻、キノコ)は大切ですが、水分不足の状態で不溶性繊維(玄米や豆など)を摂りすぎると、逆に便が詰まる原因に。水溶性繊維(ワカメ、果物、オーツ麦)をバランスよく取り入れて。

3. 生活習慣の確立

「朝食後に冷たい水を飲む」、「決まった時間にトイレに座る」など、排便の「リズム」を体に覚えさせることが脳への刺激に。

4. 適度な運動とマッサージ

座りっぱなしは腸の動きを停滞させます。足踏みや腹部のマッサージ(「の」の字を書くように)だけでも効果的。また、トイレで前かがみの姿勢(ロダンの「考える人」のポーズ)をとることも直腸がまっすぐになり排便を助けます。


第4章:便秘薬の使い分け:下剤の強さと新しい選択肢、そして漢方

内服薬(飲み薬)で日頃からコントロールするのが理想ですが、薬の選び方は、その「強さ」と作用メカニズムによって整理できます。介護現場では、まず「弱〜中」の薬で毎日のお通じを整えることを目標にし、「強」の薬は頓用(必要な時だけ使う)に留めるのが賢明です。


下剤の強さ(強・中・弱)での評価

下剤は、その作用の強さによって一般的な目安がある。

強さの目安主な薬のタイプ特徴副作用のリスク
弱〜中浸透圧下剤、新しいタイプの薬便を柔らかくし、自然な排便を促す。習慣性が少ない。毎日用。少ない。お腹が緩くなる程度。
中〜強刺激性下剤、一部の漢方薬(大黄など)腸を直接動かす。即効性がある。腹痛、下痢、常用による習慣性。頓用推奨。

1. 弱い〜中程度(習慣性が少ない、毎日用)

  • 浸透圧下剤(酸化マグネシウム等)便に水分を集めて柔らかくする。習慣性(癖)になりにくい。水分を一緒に摂らないと効果が半減。腎機能が悪い人は注意。
  • 新しいタイプの便秘薬(アミティーザ・グーフィス・リンゼス)近年登場した、既存の下剤とは異なるメカニズムで働く薬。医師の処方箋が必要だが、習慣性が少なく毎日飲めるため、高齢者や認知症の方の対策に広く使われ始めている。

    • アミティーザ(補足:腸内への水分の分泌を増やし、便を柔らかくする)

    • グーフィス(補足:胆汁(たんじゅう)の流れを良くし、腸を動かすとともに便に水分を与える)

    • リンゼス(補足:腸の神経に働きかけ、腸の動きを活発にする。腹痛や残便感にも効果がある)

    これらの薬は、腸に水分を集める点では浸透圧下剤に似ていますが、その方法は異なります。主治医が患者さんの状態(腎機能や副作用など)に合わせて選択する。
  • 漢方薬(刺激性成分を含まないもの)便を柔らかくしたり、腸の潤いを助けたりする。強さは弱〜中程度。
    • 例:麻子仁丸(ましにんがん)、潤腸湯(じゅんちょうとう)など。

2. 中程度〜強い(即効性がある、頓用・出口対策)

  • 刺激性下剤(センノシド等)腸を直接刺激して動かす。即効性がある。常用すると腸が慣れてしまい、薬がないと動かなくなる。
  • 漢方薬(刺激性成分を含むもの)「大黄(だいおう)」という刺激性成分を含む。強さは中〜強。即効性があるが、刺激性下剤と同様の注意が必要。
    • 例:大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)など。

数日出ずに便が硬く出口(直腸)で詰まっている場合は、即効性のある座薬やカンチョウで「出口の開通」を優先する判断も必要です。漢方薬であっても、「刺激性」が含まれるものは常用を避けるのが基本です。


まとめ:介護者の心得

「たかが便秘、されど便秘」。お通じの管理は、単なる排泄介助ではありません。認知症の方の不穏を防ぎ、転倒・骨折という重大な事故から守るための「総合的な健康管理(リスクマネジメント)」そのものです。

便が出たあとの本人のスッキリした表情は、介護者の負担も大きく減らしてくれるはず。お悩みの方は、ぜひ一度、お通じの記録を確認してください。


【出典】

  • 日本消化器病学会「便秘症診療ガイドライン 2023」
  • 厚生労働省「e-ヘルスネット:便秘と食習慣」
  • 日本認知症学会「認知症疾患診療ガイドライン 2017」
  • 高齢者の転倒予防ガイドライン

記事でも解説した通り、便秘対策に水分補給は不可欠ですが、嚥下障害がある方への『とろみ剤』の使用には注意が必要です。とろみ剤自体が水分を抱え込み、腸での水分吸収を阻害して便を硬くしてしまうことがあるからです。

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