「最近、人の名前がパッと出てこない」 「買い物の計算が以前より遅くなった気がする」
薬局の窓口でも、こういった「脳の衰え」に関する不安を相談されることが増えてきました。多くの人が「これは認知症の始まりなのだろうか?」と心配されています。
しかし、「物忘れ=即、認知症」ではありません。
実は、健康な状態と認知症の間には、**「MCI(軽度認知障害)」と呼ばれるグレーゾーンが存在します。そして最も重要なことは、「このMCIの段階で気づけば、健常な状態に戻れる可能性がある」**ということです。
今回は、MCIと認知症の決定的な違い(境界線)と、なぜ早期発見が重要なのかについて、客観的なデータをもとに解説します。

【結論】MCIと認知症の「境界線」はどこにある?
まず結論から申し上げます。MCI(軽度認知障害)と認知症を分ける最大の境界線は、**「日常生活を自立して送れているかどうか(ADLの自立)」**です。
- MCI(軽度認知障害): 記憶力などの機能は低下しているが、食事の準備や買い物、金銭管理など、身の回りのことは一人でできる状態(生活に支障がでていない)。
- 認知症: 認知機能の低下により、生活に支障が出ており、誰かの手助けや介護が必要な状態。
つまり、「多少の不便はあるけれど、今のところ一人で生活が回せている」のであれば、それは認知症ではなくMCIである可能性が高いと言えます。
【理由】なぜ「日常生活」が判断基準になるのか?
なぜ、脳の検査数値だけでなく「生活ができているか」が基準になるのでしょうか。
専門的な言葉で補足すると、これは**「手段的日常生活動作(IADL)」**が保たれているかどうか、という視点です。
人間の生活動作には、大きく分けて2つのレベルがあります。
- 基本的な動作(ADL): 歩く、食べる、トイレに行く、着替えるなど、生きていくための基本動作。
- 複雑な動作(手段的ADL=IADL): 料理の献立を考えて作る、電車やバスを乗り継いで出かける、電話の応対をする、薬を管理する、お金の計算をするなど、頭を使う複雑な動作。
認知症の進行では、まず2の「複雑な動作」ができなくなり、進行すると1の「基本的な動作」も難しくなります。
MCIの段階では、**「少し時間はかかるけれど、工夫すれば2の複雑な動作もなんとかできる」**という状態が保たれています。この「なんとか自力でできている」というラインが、医学的な診断における非常に重要な境界線なのです。

【データと事例】数字で見るMCIの現状と回復率
では、具体的にどれくらいの人がMCIに該当し、そこからどのような経過をたどるのでしょうか。公的なデータを確認してみましょう。
① 日本におけるMCIの数
厚生労働省の推計によると、2025年には65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は約700万人(約5人に1人)、MCIの人はそれと同等の約600万人以上にのぼると予測されています。 つまり、65歳以上の約3〜4人に1人は、認知症またはMCIの状態にあるということです。これは決して他人事ではありません。
② MCIから認知症への移行率、そして回復率
ここが今回の記事で最もお伝えしたいポイントです。
「一度認知機能が落ちたら、もう戻らない」と思っていませんか? 実は、MCIと診断された人がその後どうなるかを追跡した研究では、以下のようなデータが出ています。
- 認知症へ進行する人: 年間約 10〜15%
- 現状を維持する人: 多くの人がここに留まります
- 正常な認知機能に戻る(リバート)人: 年間約 16〜41%
驚かれたかもしれません。適切な対策(運動、食事、知的活動など)を行うことで、MCIの段階であれば、約14〜44%の人が健常な状態へ回復(リバート)したという報告があるのです。
一方で、何も対策をせずに放置すると、年間10%以上の確率で認知症へと進行してしまいます。健康な人が認知症を発症する率は年間1〜2%程度と言われていますので、MCIの段階では認知症リスクが非常に高まっていることは事実です。
だからこそ、「境界線」にいる今の段階で気づき、引き返すことが重要なのです。
【チェック】日常生活に見られる「MCIのサイン」
では、どのような変化があったらMCIを疑うべきでしょうか? ケアマネージャーにも意見を伺い、生活の中で気づきやすいサインをまとめました。
<本人や家族が気づけるMCIのサイン>
- 以前よりもおっくうになった
- 大好きだった趣味(手芸や囲碁など)をやらなくなった。
- 外出の支度が面倒で、家にこもりがちになった。
- 複雑な処理が苦手になった
- 料理のレパートリーが減った(複数の料理を同時進行で作れなくなった)。
- ATMの操作や、セルフレジの使い方がわからず戸惑うことが増えた。
- 会話の変化
- 「あれ」「それ」という代名詞が増え、固有名詞が出てこない。
- 同じ話を何度も繰り返すようになったが、本人は気づいていない。
これらは単なる「老化」と見過ごされがちですが、頻繁に起こるようであれば、脳のSOSサインかもしれません。

【対策】今日からできる「引き返す」ためのアクション
MCIから回復するためには、脳への適切な刺激が必要です。特定の「特効薬」があるわけではありませんが、生活習慣の改善が効果的であることがわかっています。
- デュアルタスク(二重課題)運動 国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」が有名です。「計算しながら歩く」「しりとりをしながら足踏みをする」など、頭と体を同時に使う運動が脳の活性化に非常に有効です。
- 対面でのコミュニケーション 人と会話することは、相手の表情を読み、言葉を選び、反応するという高度な脳機能を使います。孤独は認知機能低下の最大のリスクの一つです。
- 食生活の見直し 青魚に含まれるDHA・EPAや、抗酸化作用のある野菜を積極的に摂取することも推奨されています。
【まとめ】

MCI(軽度認知障害)と認知症の違いは、「日常生活が自立しているかどうか」です。 そして、MCIは「認知症の入り口」であると同時に、**「健康に戻れるラストチャンスの期間」**でもあります。
「年のせいだから仕方ない」と諦めず、少しでも変化を感じたら、専門医への受診や、生活習慣の見直しを行ってください。早期発見・早期対応こそが、あなたとご家族の未来の笑顔を守る鍵となります。
※本記事は2026年2月時点の情報に基づき執筆しています。症状に不安がある場合は、必ず医療機関(物忘れ外来など)を受診してください。
【出典・参考文献】
- 厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」
- 国立長寿医療研究センター「MCI(軽度認知障害)とは?」
- 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」
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