認知症になったときに利用できる制度|介護保険・後見制度・医療費助成の基礎知識

生活支援

はじめに:家族の経験談から

「父に認知症の診断が出たとき、私の頭の中は真っ白になりました。これからの生活はどうなるのか、介護にどれだけお金がかかるのか、仕事との両立はできるのか…。不安ばかりが先に立ち、どう動けば良いのかわかりませんでした。病院で『介護保険の申請をしてください』と勧められても、手続きの方法も窓口の場所もわからず、心が折れそうになったのを覚えています。

そんなとき、地域包括支援センターに相談したことで少しずつ制度の仕組みが見えてきました。介護保険や医療費助成を利用できると知った瞬間、肩の荷が下りたような気持ちになったのです。

今、認知症介護を担う人、これから始まる人に伝えたいのは、『制度を知って活用することで、介護の負担は確実に軽くなる』ということです。本記事では、介護保険・成年後見制度・医療費助成制度を中心に、認知症介護に関わる方が知っておくべき制度を整理しました。」


1.認知症介護における制度の重要性

認知症の介護は長期にわたることが多く、家族の身体的・精神的・経済的な負担が重くのしかかります。特に「自分が何とかしなければ」と一人で抱え込むと、介護うつや共倒れのリスクが高まります。

制度を上手に使えば、

  • サービス利用で介護の負担を軽減できる
  • 経済的支援で安心につながる
  • 判断能力が低下しても生活と財産を守れる
    といった効果が期待できます。

介護を「頑張りすぎない」ためにも、制度の知識は欠かせません。


2.介護保険制度の基礎知識

2-1. 介護保険とは

介護保険制度は、40歳以上の国民が保険料を納め、介護が必要になったときにサービスを受けられる仕組みです。認知症の方も、要介護認定を受けることで様々な支援を利用できます。

2-2. 利用までの流れ

  1. 市町村の窓口(介護保険課・高齢福祉課など) に「要介護認定」を申請
     →役所によって担当課の名称は異なりますが、多くは「介護保険課」や「高齢福祉課」です。地域包括支援センターから申請代行をしてもらうことも可能です。
  2. 認定調査員による聞き取り・主治医の意見書
  3. コンピュータ判定+介護認定審査会で最終判定
     →要支援1~2、要介護1~5の区分が決まる
  4. ケアマネジャーがケアプランを作成
  5. サービス利用開始

申請から利用開始までの目安期間は、通常1か月程度です。認定結果が出るまでに30日前後かかるのが一般的ですが、急ぎの場合は「暫定ケアプラン」を作成し、結果通知前からサービスを先行利用できる場合もあります。

2-3. 受けられる主なサービス

  • 訪問介護(ホームヘルプ):食事・排泄・掃除など日常生活のサポート
  • デイサービス:日中の活動支援、入浴、機能訓練、社会交流
  • ショートステイ:家族が休むための短期入所
  • 福祉用具レンタル:車いす、ベッド、手すりなど
  • 住宅改修:手すり設置や段差解消など

2-4. 介護保険のメリットと注意点

  • 利用者負担は原則 1割(所得に応じて2~3割)
  • 要介護度ごとに支給限度基準額がある
  • 上限を超えると全額自己負担になるため、ケアマネジャーと調整が必要

実際に「デイサービスを利用し始めてから母が笑顔になり、私も一人の時間を持てるようになった」と語る家族は多くいます。


3.成年後見制度で生活と財産を守る

3-1. 制度の目的

認知症が進むと、預金の管理や契約手続きが難しくなります。詐欺や悪質商法の被害に遭うケースも少なくありません。そんなときに本人を守る仕組みが 成年後見制度 です。

3-2. 成年後見制度の種類

  • 法定後見制度:すでに判断能力が不十分な場合、家庭裁判所が後見人を選任
  • 任意後見制度:判断能力があるうちに、将来に備えて後見人を契約で決めておく方法

3-3. 後見人ができること

  • 財産管理(預金、年金、不動産など)
  • 介護サービス利用契約や入院手続き
  • 必要に応じて生活に関する契約支援

3-4. 注意点と相談窓口

  • 家庭裁判所への申立てが必要
  • 報酬が発生する(年数万円~数十万円程度)
  • 親族が後見人になる場合と、弁護士・司法書士など専門職後見人が選ばれる場合がある

相談できる窓口

  • 家庭裁判所:申立て書類や手続き方法を案内
  • 地域包括支援センター:制度説明や申立て支援、地域の専門職とのつなぎ役
  • 弁護士会・司法書士会:専門職後見人を探す相談窓口、無料相談会あり
  • 社会福祉協議会:一部では権利擁護支援事業として相談対応

「父が詐欺に遭いそうになったとき、後見人がいて助かった」と語る家族も多く、早めの備えが安心につながります。


4.医療費助成制度の活用

4-1. 高額療養費制度

医療費が一定額を超えると、超過分が払い戻される制度です。所得に応じて自己負担の上限が決まっています。

4-2. 自立支援医療(精神通院医療)

認知症そのものは対象外ですが、精神科通院での合併症(不眠、不安、うつなど)がある場合に利用可能です。自己負担は1割になります。

4-3. 後期高齢者医療制度

75歳以上は後期高齢者医療制度に加入します。保険証が切り替わるため、介護や医療の窓口での確認が必要です。

4-4. その他の支援

医療費控除(確定申告で医療費が一定額を超えると税金控除)や難病医療費助成(認知症単独では対象外だが合併症が対象になる場合あり)も知っておくと安心です。


5.相談窓口と活用のコツ

5-1. 地域包括支援センター

介護・医療・福祉・権利擁護をワンストップで相談できます。認知症サポート医やケアマネジャーとも連携して情報提供してくれる心強い窓口です。

5-2. 市区町村の福祉課

介護保険申請や医療費助成の手続きは役所の福祉課・介護保険課で行います。事前に必要書類を確認してから出向くとスムーズです。

5-3. 専門職への相談

  • 社会福祉士:制度活用のコーディネート
  • 薬剤師:服薬管理、副作用チェック
  • 弁護士・司法書士:成年後見や契約関連

6.介護家族へのメッセージ

認知症の介護は、先が見えず不安に押しつぶされそうになるものです。介護の現場では「もう限界かもしれない」と涙ながらに相談に来るご家族を数多く見てきました。

でも、制度を知って活用することで、「全部自分一人で抱え込まなくてもいい」と気づけます。介護保険でサービスを受け、成年後見制度で財産を守り、医療費助成で家計を助けてもらう。これらはすべて、介護する人とされる人を支えるための仕組みです。

「制度を知ることは、自分と家族を守ること」。
この記事が、あなたの介護生活を少しでも支える手助けになれば嬉しく思います。


出典元

  • 厚生労働省「介護保険制度について」
  • 厚生労働省「成年後見制度の利用の手引き」
  • 厚生労働省「高額療養費制度」
  • 厚生労働省「自立支援医療制度」
  • 各地地域包括支援センター業務マニュアル

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