はじめに ― ある家族の体験談から
「母が認知症と診断されてから、家の中はずっと張り詰めた空気でした。夜中に何度も起きて歩き回る母に付き添い、私は眠れないまま仕事に行く日々。どうしていいのかわからなくて、誰にも相談できずに、ただ疲れだけが溜まっていったんです。そんなときにケアマネジャーさんから紹介されたのが『認知症家族会』でした。正直、最初は半信半疑でしたが、思い切って参加してみると、同じような悩みを持つ人たちと出会えたことが本当に救いになりました。」
これは、私がこれまで関わった介護者の方からよく耳にする声です。認知症家族会は、認知症の方を支えるご家族や介護者が集まり、体験や悩みを共有し合う場所です。孤独になりやすい在宅介護の中で、家族会に参加することは心の支えとなり、情報を得る機会にもつながります。この記事では、認知症家族会に参加するメリットを具体的な体験談や事例を交えながらご紹介します。
認知症家族会とは

認知症家族会は、全国各地で自治体や地域包括支援センター、医療機関、NPO団体などが主催して開かれています。参加者は主に認知症の方を介護する家族であり、介護の悩みや工夫を気軽に語り合うことができます。
活動内容は地域によって異なりますが、主に以下のような取り組みが行われています。
- 介護経験の共有
- 専門職(医師・薬剤師・看護師・介護福祉士など)による講演や相談会
- 認知症に関する最新情報の提供
- 交流会や茶話会、レクリエーション活動
- 家族同士の相互支援ネットワークづくり
「情報」と「安心感」を得られるのが大きな特徴です。
家族会に参加するメリット
1. 孤独感から解放される
認知症介護では「うちだけが大変なのではないか」という孤立感を抱く方が少なくありません。家族会では似た境遇の人と出会えるため、「自分だけじゃない」と思えることが大きな励みになります。
ある参加者はこう話してくれました。
「父が暴言を吐くようになり、家族の中で私だけが責められているように感じていました。でも家族会で同じような経験を持つ人がいて、『うちも同じだよ』と言われただけで涙が出ました。」
2. 介護の工夫を学べる
家族会では実際に介護をしている人の「生の知恵」を得られます。たとえば、
- 夜間徘徊に対してどう対応しているか
- 食事をとらないときの工夫
- 薬を飲み忘れたときの対策
- デイサービスやショートステイの上手な使い方
など、専門書やインターネットだけでは得られない具体的な知識を交換できます。薬剤師の立場から見ても、「薬の副作用で起きやすい症状を経験者がどう乗り越えたか」という話は非常に参考になります。
3. 専門職に直接相談できる機会がある
多くの家族会では、地域包括支援センターの職員や医療・介護の専門職が参加しています。そのため、普段の外来や面談では聞きにくい疑問を気軽に相談できます。
例えば、
「母の睡眠薬をやめたいけれどどうしたらいいか?」
「介護サービスの利用を増やすと費用はどのくらいかかるのか?」
こうした具体的な相談を気軽に投げかけられるのも大きな魅力です。
4. 情報収集の場になる
介護保険サービスや最新の認知症治療法、地域の支援制度は日々変化しています。家族会では、行政や医療機関からの情報提供がある場合も多く、「知らなかった」では済まない情報をキャッチできる場となります。
5. 気持ちを吐き出せる
介護は長期戦です。愚痴を誰にも言えずに抱え込んでしまうと、介護うつやバーンアウトにつながることがあります。家族会は「安心して吐き出せる場」として機能します。
ある参加者はこう話していました。
「家族に言えない愚痴をここで話したら、みんながうなずいてくれてホッとしました。帰り道は心が軽くなっていました。」
体験談 ― 家族会が救いになったケース

ケース1:介護疲れで限界を感じていた娘さんの場合
70代の母親を自宅で介護していた50代女性。睡眠不足と介護ストレスで心身ともに限界を感じていたとき、家族会に参加しました。同じ境遇の人たちと話すことで「ひとりで背負わなくていい」と気づき、ショートステイや訪問介護の利用を決断。結果的に自分の時間が持てるようになり、介護を続ける余力を取り戻しました。
ケース2:介護サービスの利用に踏み切れなかった夫の場合
80代の妻を介護していた70代男性。外部サービスを使うことに抵抗がありましたが、家族会で他の人が「デイサービスを利用して自分も休んでいる」と話しているのを聞き、自分も導入を決意。結果的に妻も楽しみを見つけ、夫自身も趣味の時間を再開できました。
ケース3:薬の副作用に悩んでいた家族の場合
抗精神病薬による副作用で母親にふらつきが出て困っていた家族。家族会で薬剤師に相談し、主治医に減薬を提案。副作用が軽減し、転倒リスクが下がったという例もありました。
家族会に参加するときの注意点
- 地域ごとに内容や雰囲気が異なる
茶話会形式の気軽な集まりもあれば、専門的な講演が中心の会もあります。自分に合う会を探してみると良いでしょう。 - 無理に話す必要はない
最初は聞いているだけでも大丈夫です。安心できたら少しずつ話してみるとよいです。 - 個人情報の扱いに配慮
会の中で知り得たことを外に漏らさないことが大切です。
まとめ
認知症家族会は、介護をしている家族にとって「情報」と「安心」を得られる大切な場所です。孤独になりがちな介護生活の中で、仲間とつながることで心が軽くなり、介護を続ける力につながります。
介護は一人で抱えるものではありません。もし「疲れた」「限界かもしれない」と思ったら、ぜひ一度、地域の家族会を訪ねてみてください。きっと、同じ立場の人たちが温かく迎えてくれるはずです。
出典元
- 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」
- 認知症の人と家族の会公式サイト
- 全国地域包括支援センター協議会資料
- 日本認知症ケア学会発表資料


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