【薬と介護】多剤併用(ポリファーマシー)対策に薬剤師を味方につけよう

生活支援

高齢者の薬の飲みすぎ問題と薬剤師の関わり方


はじめに

高齢者を中心に問題となっている「多剤併用(ポリファーマシー)」。
薬の数が増えれば増えるほど、副作用のリスクが高まり、服薬管理は複雑になり、介護する側の負担も増大します。

本記事では、「なぜポリファーマシーが問題なのか」「なぜ起こってしまうのか」、そして「薬剤師が現場でどのように関わっているか」について、医療・介護の現場経験をもとに解説します。


ポリファーマシーとは?

ポリファーマシー(Polypharmacy)とは、「必要以上に多くの薬を服用している状態」を指します。
明確な定義はありませんが、一般的には5剤以上の薬剤が処方されているケースで注意が必要とされています。


ポリファーマシーが問題視されている背景

● 相互作用による副作用リスクの増加

薬が複数あると、それぞれの薬効が強まりすぎたり、逆に打ち消し合ったりする「相互作用」が起こる可能性があります。
特に高齢者では肝機能・腎機能の低下により、代謝や排泄が遅れ、副作用が出やすくなります。


● 医療費の増加・社会保障費の圧迫

不要な薬が漫然と処方され続けることで、本来必要のない医療費が積み重なっていきます。
ポリファーマシーは、医療資源の浪費という観点からも問題とされています。


● 服薬コンプライアンスの低下

薬が多いと、服薬スケジュールが複雑になり、「飲み忘れ」「飲み間違い」「自己判断での中止」などが起こります。
それにより病状が安定せず、また薬が追加されるという悪循環に陥ることがあります。


ポリファーマシーが起こりやすい背景とは?

以下のようなケースが、ポリファーマシーを引き起こす温床となっています。

① 転院時に処方内容をそのまま引き継ぐ

前医の処方薬について必要性の評価をせずに継続処方されることがあります。
患者側も「前の病院で出されていたから」と説明するだけで、医師が内容まで精査しないケースもあります。


② 惰性で同じ処方が続けられる

特に慢性疾患で、症状が安定している場合、「変更しない=安全」と考えられがちですが、その薬が本当に必要かどうかは定期的に見直すべきです。


③ 薬を減らすと患者が不安に感じる

薬の数が「治療しれもらっている」と感じる方もいて、「減らす=悪化する」と誤解されることがあります。


④ 飲んでいない薬が山のようにたまっている

服薬管理が難しくなると、実は飲んでいないのに受診時は“飲んでいる”と患者が申告するケースもあります。検査値が改善していないので「薬が足りない」と判断され、薬が追加される悪循環が起きます。


⑤ 複数の医療機関を受診している

内科、整形、皮膚科、心療内科…と複数の医療機関を受診していると、診療科ごとに薬が処方され、重複や相互作用が生じるリスクが高まります。


⑥ 副作用に対してさらに薬が追加される

たとえば、痛み止めで胃が荒れた → 胃薬追加 → 便秘に → 下剤追加と、副作用を緩和するための薬が芋づる式に増える例もよく見られます。


現場での薬剤師の対応と工夫

● ケース:訪問薬剤管理の現場から

以前担当した90代の女性。15種類の薬を1日4回に分けて服用していましたが、家族が「最近は飲んだり飲まなかったり」と困っていました。

残薬確認・処方元の診療科への照会・医師との連携を通じて、以下のような見直しを行いました:

  • 重複薬・漫然処方を整理
  • 睡眠薬の減量
  • 消化薬・整腸剤の中止
  • ビタミン剤の必要性を再評価

最終的に7剤まで減薬でき、服薬意欲・食欲・ADLが向上しました。


薬剤師に相談するメリットとは?

薬が多くて困っているときは、薬剤師に相談することが最も効果的な第一歩です。

● 減薬の提案が可能

薬剤師は、必要性が低い薬や副作用リスクの高い薬について、医師に減薬の提案を行うことができます

これは「疑義照会」や「トレーシングレポート(服薬情報報告書)」を通じて行われ、次回の処方に反映されるケースもあります


● 剤形変更の提案

服用困難(錠剤が飲みにくい、嚥下困難など)の場合、薬剤師は代替剤形(口腔内崩壊錠・ゼリー剤・貼付剤など)を医師に提案することができます。

例:アリセプト錠 → アリセプトD錠(口腔内崩壊錠)、アリセプト細粒、ドネペジルの貼付剤(アリドネパッチ)など


● 処方の全体像を把握してくれる

薬剤師は、お薬手帳・残薬・飲み方・副作用の有無などを総合的にチェックし、「今、この人にとって本当に必要な薬は何か?」を見極める視点を持っています。


介護職・家族が薬剤師と連携するメリット

薬剤師の訪問は月に1~2回。だからこそ、日常的に患者さんと接している介護職やご家族の「気づき」が重要です。

以下のような情報は、薬剤師への共有をおすすめします:

  • 飲み残しが多い
  • 飲んだ後に眠気やふらつきがある
  • 利用者が「この薬、もう飲みたくない」と話す
  • 排便状況の変化(便秘・下痢など)

このような小さな変化が、大きな減薬のきっかけとなります。


まとめ:ポリファーマシー対策は「連携」がカギ

ポリファーマシーの解消には、医師・薬剤師・介護職・看護師・家族の連携が欠かせません。

薬剤師は「薬を減らす」ことが目的ではなく、「必要な薬を必要なだけ、正しく安全に使う」ことが使命です。

薬が減って、本人のQOLが上がり、介護も楽になったとき、はじめて「ポリファーマシー対策が成功した」といえるのです。

コメント

  1. もぐわい より:

    いつもありがとうございます、
    毎日読んでいます。
    楽しみにしています

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