「薬を渡すだけの場所」から、「健康を支える場所」へ。 今、調剤薬局の役割は大きく変わろうとしています。その変革の中心にいるのが、実は「管理栄養士」の皆さんです。
「病院ではなく、なぜ薬局で管理栄養士?」 そう思われるかもしれません。しかし、私たち薬剤師は現場で痛感しています。「薬の専門家だけでは、患者さんを本当の意味で健康にすることはできない」と。
この記事では、現役薬剤師である私の実体験をもとに、薬局における管理栄養士の介入がいかに治療効果を高め、薬局の価値を向上させるかについて、具体的な事例とともにお伝えします。これは、あなたの専門性が地域医療の未来をどう切り拓くかという、可能性の話です。
目次
- 薬剤師が抱える「食事指導」の限界とジレンマ
- 症例報告:Hba1cが下がらない糖尿病患者への介入
- 管理栄養士の視点が変えた「患者の意識」
- 「健康サポート薬局」における管理栄養士の法的・社会的価値
- 薬局だからこそできる!未病・予防へのアプローチ
- まとめ:薬剤師×管理栄養士が創る新しい地域医療
1. 薬剤師が抱える「食事指導」の限界とジレンマ
私たち薬剤師は、薬のプロフェッショナルです。薬理作用、相互作用、副作用のモニタリングについては責任を持って指導します。しかし、生活習慣病の患者さんに対する「食事指導」となると、どうしても「一般的」なアドバイスに留まってしまうのが現状です。
- 「塩分を控えてくださいね」
- 「カロリーの摂りすぎに注意しましょう」
- 「野菜から先に食べてください(ベジファースト)」
これらは決して間違いではありません。しかし、患者さんの生活背景や食の好みを深く分析した上での「個別具体的な提案」かと言われれば、自信を持ってYESとは言えない薬剤師が少なくありません。
なぜなら、私たちには「食」を通じて行動変容を促すための専門的なトレーニングと、継続的に伴走する時間が不足しているからです。
「わかっているけど、できないんだよ」 患者さんのこの言葉の裏にある、「何をどう食べればいいのかわからない」「作る気力がない」「長年の習慣が抜けない」という根本的な課題。ここにメスを入れられるのは、栄養学の専門知識を持ち、かつカウンセリングスキルに長けた管理栄養士しかいません。

2. 症例報告:HbA1cが下がらない糖尿病患者への介入
ここで、私の薬局で実際にあった、管理栄養士との連携が奏功した事例をご紹介します。
【患者背景】
- 60代男性
- 2型糖尿病で通院中。DPP-4阻害薬を服用。
- 主訴:薬を飲んでいるのにHbA1cが7.0%付近で停滞しており、医師からインスリン導入の可能性を示唆されている。
【薬剤師(私)の対応】 服薬コンプライアンス(薬をしっかり飲んでいるか)は良好でした。私は「食事のバランス」についてパンフレットを用いて説明し、「間食を控えること」「揚げ物を減らすこと」を指導しました。患者さんは「頑張っているんですけどね…」と浮かない顔。指導はそこで行き詰まりました。
【転機:管理栄養士へのトスアップ】 「これ以上、薬の力だけでは数値は下がらないかもしれない」。そう感じた私は、薬局に常駐している管理栄養士に相談を促しました。 「お薬の効果を最大限に出すために、食事のプロと少しお話してみませんか?」 そう伝えて、バトンを渡しました。
3. 管理栄養士の視点が変えた「患者の意識」
ここからの管理栄養士の動きは、まさに「目から鱗」でした。
① 「制限」ではなく「調整」の提案 聞き取りの結果、この患者さんは「カロリーを減らさなきゃ」という強迫観念から、朝食と昼食を極端に減らしていることが判明しました。その反動で、夕方以降に強い空腹感に襲われ、結果的に高糖質の菓子パンやスナック菓子を「隠れ食い」していたのです。
薬剤師の私が「間食をやめましょう」と正論を言っていたのに対し、管理栄養士はこう言いました。 「お昼ご飯、もっと食べていいですよ。その代わり、間食の種類を変えましょう」
② 具体的なアクションプラン(写真共有) 管理栄養士は、患者さんに「3日間だけでいいので、食べたものをスマホで撮ってきてください」と依頼しました。 後日、写真を見た管理栄養士は、患者さんの食事の「色」に着目。「茶色が多いですね。ミニトマトを3つ足すだけでいいので、赤色を入れましょう」と、誰でもできるレベルまでハードルを下げて提案しました。
③ 結果
- 1ヶ月後: 「昼をしっかり食べるようにしたら、夜のドカ食いがなくなった」と患者さんが笑顔に。
- 3ヶ月後: HbA1cが6.5%まで低下。医師から「よく頑張りましたね」と褒められ、減薬の検討が始まりました。
この事例で特筆すべきは、管理栄養士が「医学的なエビデンス」を「生活者の言葉」に翻訳した点です。これは、薬局という生活に密着した場にいる管理栄養士だからこそできた、「治療」と「生活」をつなぐ高度な介入でした。

4. 「健康サポート薬局」における管理栄養士の法的・社会的価値
現在、厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」を掲げ、「健康サポート薬局」の普及を推進しています。これは、単に薬を渡すだけでなく、地域住民の健康維持・増進を積極的に支援する機能を持つ薬局のことです。
この「健康サポート薬局」の要件や、地域連携薬局としての機能において、管理栄養士の存在は極めて重要視されています。
【薬局における管理栄養士の業務領域】
- 特定保健指導の実施
- 薬局は地域住民にとって最も身近な医療機関の一つです。未受診者や治療中断者へのアプローチも含め、管理栄養士による特定保健指導のニーズは高まっています。
- 低栄養・フレイル予防(高齢者支援)
- 在宅医療が進む中、高齢者の低栄養は深刻な問題です。薬剤師が訪問先で「薬が余っている」ことに気づき、その原因が「嚥下機能の低下で食事が摂れていない」ことにある場合、管理栄養士と連携して嚥下食や形態調整の指導を行うことができます。
- OTC医薬品・健康食品の購入相談
- ドラッグストアや薬局には多くの健康食品が並んでいますが、飲み合わせや適切な選び方を知らない方が大半です。薬剤師と管理栄養士が連携することで、サプリメントと医薬品の相互作用を防ぎつつ、適切な栄養補給を提案できます。
薬局に管理栄養士がいることは、単なるサービスの拡充ではありません。「キュア(治療)」を中心としてきた薬局に、「ケア(予防・生活支援)」という新たな収益軸と社会的価値を付加することと同義なのです。
5. 薬局だからこそできる!未病・予防へのアプローチ
病院の管理栄養士と薬局の管理栄養士、最大の違いは「患者さんとの距離感」と「未病層へのアプローチ」です。
病院では、すでに入院が必要なレベルや、医師の指示があった患者さんへの指導が主になります。一方、薬局には「ちょっと調子が悪い」「検診で引っかかったけど病院に行くほどではない」という、健康と病気の「はざま」にいる人々が訪れます。
この層に対して、早期に適切な栄養介入ができるのは、街の薬局にいる管理栄養士だけです。
【薬局×管理栄養士ができる具体的なアクション】
- 健康イベントの開催: 薬局の待合室を利用した「減塩試食会」や「骨密度測定会」。
- 栄養だよりの発行: 季節ごとの食事の悩みに答えるニュースレターの配布。
- 地域包括支援センターとの連携: 地域に出向いての栄養講話。
これらは、薬局が「地域コミュニティのハブ」になるために不可欠な活動です。そして、それを主導できるのは、コミュニケーション能力と企画力を持った管理栄養士の皆さんなのです。
6. まとめ:薬剤師×管理栄養士が創る新しい地域医療

薬だけでは、健康は創れません。 「薬と食事は同じ口から入る」。だからこそ、薬理学のプロである薬剤師と、栄養学のプロである管理栄養士がタッグを組むことは、必然であり、最強の組み合わせです。
もし、あなたが「病院以外のフィールドで力を試したい」「もっと患者さんの生活に寄り添いたい」と考えている管理栄養士なら、調剤薬局はあなたの能力を最大限に発揮できる場所です。
薬剤師である私は断言します。 私たち薬剤師には、あなたの力が必要です。
数値の改善だけでなく、患者さんが「食べる喜び」を取り戻し、笑顔になる瞬間を一緒に作りませんか? 薬局というフィールドで、新しい「多職種連携」のドラマが、あなたを待っています。
【出典・参考文献】
- 厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」
- 厚生労働省「健康サポート薬局のあり方について」
- 日本栄養士会「認定栄養ケア・ステーション」に関する資料
- ※本記事は2026年2月時点の情報に基づき執筆しています。個別の症例における医学的判断は主治医の指示に従ってください。事実関係の確認ができない詳細な医療統計については記載を控えています。
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