認知症テスト一覧|MMSE・HDS-R・MoCAの特徴を徹底解説【家族・介護者向け】

認知症

はじめに

「父が物忘れをすることが増えてきて、病院で検査を受けることになったんです。そのとき医師から“簡単なテストをしますね”と言われました。数字を逆から言ったり、言葉を覚えて繰り返したり。終わった後、医師から“これは認知症のスクリーニングテストです”と説明されましたが、正直、どんな意味があるのか分からず不安でした。」

介護に関わるご家族や施設職員の方々から、こうした声をよく耳にします。認知症の診断や進行度の把握には、いくつかの代表的なテストが使われています。その代表例が MMSE(Mini-Mental State Examination)HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、そして MoCA(Montreal Cognitive Assessment) です。

この記事では、それぞれのテストの特徴や違い、現場での活用のされ方を分かりやすく解説します。


1. 認知症スクリーニングテストの役割

認知症の診断は、医師による問診や画像検査、血液検査などを組み合わせて行われます。その中で、**スクリーニングテストは「認知機能の状態を簡易的に把握するための道具」**です。

  • 認知症の有無を大まかに判断する
  • 病状の進行を追跡する
  • 治療や介護方針を検討する材料とする

といった役割があります。数分から20分程度でできるため、外来診療や介護現場でも活用される場面が多いです。

ただし、スクリーニングテストだけで「認知症です」と確定診断できるわけではないことは押さえておく必要があります。


2. MMSE(Mini-Mental State Examination)の特徴

MMSEは、1975年に米国で開発された世界的に広く使われている認知機能検査です。日本語版も普及しており、多くの医療機関で標準的に実施されています。

  • 検査内容:時間や場所の見当識、即時記憶、計算、言語、構成能力などを含む30点満点のテスト
  • 所要時間:10〜15分程度
  • 判定の目安:24点以下で認知症の可能性あり(あくまで目安)

特徴

  • 世界的に使われているため、海外の研究や診療との比較がしやすい
  • 認知機能を幅広く評価できる
  • 一方で、教育歴が低い人や高齢者では点数が低く出やすい傾向がある

現場でのエピソード

ある高齢者施設では、入居時にMMSEを行い、半年ごとに点数の変化を追っています。以前は28点だった方が25点に下がり、職員が「少し変化が見られる」と気づき、早めに医師へ相談した事例がありました。


3. HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)の特徴

HDS-Rは日本で開発された認知機能検査で、1974年に長谷川和夫医師らが考案し、その後改訂版が普及しています。日本の高齢者に適したテストとして広く用いられています。

  • 検査内容:年齢の確認、日時や場所の見当識、言葉の記憶、計算、物品の名称などを問う、30点満点のテスト
  • 所要時間:5〜10分程度
  • 判定の目安:20点以下で認知症の疑いあり(目安)

特徴

  • 日本の文化や生活習慣に即しているため、高齢者にも受け入れやすい
  • 所要時間が短く、外来や在宅で実施しやすい
  • 海外ではあまり使われていないため、国際比較には不向き

現場でのエピソード

訪問診療の現場で、医師がHDS-Rを行ったときのこと。本人が「今日は何月何日ですか?」の質問に「さあ…」と答えられず、ご家族がショックを受けていました。しかし医師は「こういう答えが出ることも大事な情報なんです」と説明し、今後のケア方針を一緒に考えるきっかけになりました。


4. MoCA(Montreal Cognitive Assessment)の特徴

MoCAは2005年にカナダで開発された比較的新しい認知機能検査です。軽度認知障害(MCI)の検出に優れているとされ、注目されています。

  • 検査内容:視空間認知、実行機能、記憶、注意、言語、抽象概念、見当識などを含む30点満点
  • 所要時間:10〜15分程度
  • 判定の目安:26点未満で軽度認知障害の可能性あり(目安)

特徴

  • 軽度の認知機能低下を拾いやすい
  • 項目が多く、教育歴の影響を受けにくい
  • 日本語版も開発され、臨床現場で使われ始めている

現場でのエピソード

まだ日常生活に大きな支障がなくても、MoCAを受けて26点を下回る結果が出た方がいました。その結果をきっかけに、本人と家族が生活習慣の改善(運動・食事・社会参加)に取り組み、予防的な介入につながりました。


5. 3つのテストの違いと使い分け

テスト名主な対象特徴所要時間カットオフ目安
MMSE世界標準、幅広い対象世界的に普及、比較研究に有用10〜15分24点以下
HDS-R日本の高齢者日本文化に即して受け入れやすい5〜10分20点以下
MoCA軽度認知障害(MCI)軽度低下を検出、教育歴の影響少ない10〜15分26点未満

それぞれに強みと限界があります。例えば、外来で手軽に行うならHDS-R、国際的に比較したいならMMSE、MCIの早期発見ならMoCA、といった形で使い分けられます。


6. 家族や介護者が知っておくと良いこと

  • 結果に一喜一憂しない:点数はあくまで目安であり、その日の体調や環境によっても変わります。
  • 診断は総合的に行われる:画像検査や血液検査、生活歴などと合わせて判断されます。
  • 早めに受けることの意義:軽度の段階で気づくことで、生活習慣の改善や介護準備につながります。

介護者からの声

「母のHDS-Rの点数が低くて落ち込みました。でも医師から“点数は一部の指標に過ぎません。生活全体を見て支えていきましょう”と言われて救われました。」


まとめ

認知症のスクリーニングテストには、MMSE、HDS-R、MoCAといった代表的なものがあります。それぞれに特徴があり、医師や介護者が状況に応じて使い分けています。ご家族や介護関係者にとって大切なのは、テストの点数そのものではなく、**「どう生活に活かすか」**という視点です。

テストをきっかけに、医師やケアチームと一緒に今後の生活やケアのあり方を考えていけると安心につながるでしょう。


出典

  • Folstein MF, Folstein SE, McHugh PR. “Mini-mental state”. A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 1975.
  • 長谷川和夫ほか. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R).
  • Nasreddine ZS, et al. The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: A Brief Screening Tool For Mild Cognitive Impairment. J Am Geriatr Soc. 2005.
  • 日本認知症学会「認知症の診断と治療指針」
  • 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」

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