1. なぜ多職種連携が重要か
認知症ケアは、本人の身体的・精神的健康、生活環境、家族関係など、幅広い側面にアプローチする必要があります。そのため、一つの職種だけで対応するのは困難です。
薬剤師・看護師・ケアマネジャーを中心に、理学療法士や作業療法士、介護スタッフ、管理栄養士、行政関係者などが協力し、「本人を中心にした包括的ケア」を提供する体制が求められます。
その基盤となるのが、多職種連携です。情報を共有し、課題を一緒に整理し、方向性をチームで確認することが、認知症ケアを成功に導きます。
薬剤師の役割:「薬の専門家」としての貢献

1. 薬剤の適正使用・服薬指導
認知症の方は複数の疾患を抱えることが多く、薬の種類が増える傾向にあります。
薬剤師は以下の観点でサポートします。
- ポリファーマシー(多剤併用)のリスク評価
- 認知症治療薬や抗精神病薬による副作用(転倒、ふらつき、便秘、せん妄など)のチェック
- 医師への疑義照会を通じた処方調整
サービス担当者会議では、服薬状況や副作用に関する最新の情報を共有し、他職種が適切なケアを行えるように支援します。
2. 服薬アドヒアランス支援
認知症により服薬管理が難しくなる方には、
- 一包化やカレンダー管理、服薬ボックスの活用
- ご家族や介護スタッフへの服薬方法の指導
- 訪問薬剤管理指導(居宅療養管理指導)での在宅支援
これらの工夫により、服薬ミスや多重服用の防止を図ります。
3. 訪問看護ステーションとの連携
在宅での服薬管理には、訪問看護ステーションとの協力が欠かせません。
訪問看護師と薬剤師が情報を共有することで、服薬中の体調変化や副作用の早期発見につながり、安全性の高い薬物療法が可能になります。
看護師の役割:身体と生活の安全を守る専門職

1. 日常の健康観察と異変への早期対応
看護師は、在宅や施設で生活する認知症の方の健康状態を把握し、異変を早期に察知します。
- 体温、血圧、脈拍、水分・栄養摂取、排泄状態のチェック
- 認知機能の変化や抑うつ・せん妄など心理的症状の観察
- 転倒や外傷など、事故防止のための見守り
訪問看護ステーションに所属する看護師は、定期的に訪問し、日常の観察だけでなく、医療処置や家族へのケア指導も担います。
2. 医療的ケアの提供
- 経口摂取が難しい方への摂食・嚥下ケア
- 褥瘡(じょくそう)の予防や感染症ケア
- 薬剤師と連携して副作用や服薬コンプライアンスの確認
こうした日常的なケアが、本人の健康を守る基盤となります。
3. ご家族・介護スタッフへの支援
看護師は、本人だけでなく介護する家族にも寄り添います。
- 認知症の症状や対応方法の説明
- 介護ストレスや睡眠不足に悩む家族への相談支援
- サービス担当者会議での報告・共有による支援体制の強化
ケアマネジャーの役割:ケア全体を設計・調整する司令塔

1. アセスメントとケアプラン作成
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、本人・家族の希望や課題を丁寧に把握し、最適なケアプランを作成します。
- 認知症の進行度、生活環境、介護力を総合的に評価
- 医師、看護師、薬剤師、リハビリ職種の意見を集約
この計画は、サービス担当者会議で多職種と共有し、常に最新の状態に合わせて更新されます。
2. サービス調整
ケアマネは、介護サービス事業所や訪問看護ステーション、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどの調整役です。
- 本人や家族の要望に合わせた柔軟な調整
- 緊急時の迅速な対応やサービス追加
3. 多職種連携の中心
ケアマネジャーは多職種の意見をまとめ、連携を促進する要の存在です。
- 情報の一元管理
- 定期的な連絡・報告・相談の場の確保
- 課題が生じた際の迅速な改善策の提案
サービス担当者会議の重要性
認知症ケアを円滑に進めるには、サービス担当者会議が欠かせません。
- 本人・家族・医療職・介護職が一堂に会して情報共有
- ケアプランの進捗確認と課題整理
- 必要に応じたサービス内容の見直し
薬剤師は服薬状況を、看護師は健康面を、ケアマネは生活全体を報告・調整しながら、チーム全体で「次に何をすべきか」を明確化します。それ以外の職種もそれぞれの専門性を活かして、利用者さん、家族にとってベストな方法を話し合います。
多職種連携を成功させるポイント

- 定期的な情報交換
サービス担当者会議やケースカンファレンスを定期的に開催することが、問題の早期発見・対応につながります。 - 訪問看護ステーションとの密な連携
在宅療養中の健康状態や服薬状況を看護師と薬剤師が連携し、即時に対応策を検討する体制を整えます。 - 共通目標の設定
「本人の生活の質(QOL)の向上」を共通目標とし、全員が同じ方向を向くことが大切です。 - 記録と共有の徹底
連絡帳、電子記録システム、電話連絡など複数の手段で情報を共有し、抜け漏れを防止します。 - 信頼関係の構築
小さな成功体験を共有しながら、各職種がお互いを尊重し合う関係を築くことが、連携の質を高めます。
まとめ:薬剤師・看護師・ケアマネの連携表
| 役割 | 主な業務内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| 薬剤師 | 薬の適正使用、副作用管理、服薬支援 | サービス担当者会議で最新情報を共有、訪問看護ステーションと連携 |
| 看護師 | 健康観察、医療ケア、家族支援 | 在宅訪問での体調管理、服薬状況を薬剤師と情報共有 |
| ケアマネ | ケアプラン作成・調整、サービス調整 | 連絡調整の中心として全体の進行を管理 |
結びに
認知症ケアは「誰か一人の力」で成り立つものではありません。薬剤師、看護師、ケアマネジャーを中心に、訪問看護ステーション、介護スタッフ、地域資源を結びつけることで、初めて「本人らしい暮らし」を支えるケアが可能になります。
特にサービス担当者会議は、情報共有と信頼関係を深める場として重要です。チームが同じ方向を向き、細やかな連携を積み重ねることで、安心できる認知症ケアが実現します。
出典(参考資料)
- 厚生労働省「高齢者医療・介護連携推進マニュアル」
- 日本薬剤師会「在宅医療における薬剤師の役割」
- 日本看護協会「訪問看護ステーション運営ガイドライン」
- 日本介護支援専門員協会「ケアマネジメントの基本と実践」


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