認知症の進行ステージ別症状と対応方法 ~介護スタッフ・ご家族の実践ガイド

在宅

認知症は進行性の病態であり、軽度(初期)・中等度(中期)・高度(末期)の各ステージで現れる症状や必要な支援は大きく異なります。ここでは、**FAST(Functional Assessment Staging)**という信頼性の高い評価尺度に基づき、各ステージの特徴を整理し、それぞれのステージで介護者が取り入れやすい具体的な対応例を紹介します。

FAST とは? ステージ分類の基盤に

FASTは、アルツハイマー型認知症の進行度を7段階で示す評価尺度で、日常生活の動作(ADL)に着目した実践的な指標です(医療や介護の場で広く用いられています)。

  • ステージ1〜3(正常〜境界状態):日常にはほぼ支障なし。
  • ステージ4〜5(軽度〜中等度):記憶力や計画力の低下が日常に影響。
  • ステージ6〜7(やや重度〜高度):日常動作に全面的な介助が必要に。

これを基本として、各ステージの介護対応を整理します。


1. 軽度(初期/FAST 4 程度)

症状の傾向

  • 最近の出来事や会話の内容を忘れることが増える。
  • 金銭管理や段取り、計画など実行機能の低下が顕著に(例:食事の準備が時間通り進まない)。
  • 日常生活は概ね自立可能な場合が多い。

実践的対応例

  • 早期診断と服薬管理
    • 「もの忘れ外来」など専門医を受診し、アリセプト、レミニールなどの治療薬を検討(軽度から中等度まで使用可能)。服薬管理として、一包化やお薬カレンダーなど。
  • 環境整備と見える仕掛け
    • メモリーボード、スマホの通知機能、カレンダーで予定や物の置き場所を「見える化」。毎朝「今日の予定」として声かけしながら確認する習慣化も有効です。
  • 役割の維持と社会参加
    • 簡単な家事(食卓セッティング、新聞を揃えるなど)や趣味への参加で、自尊心を守りながら認知機能の維持を目指します。

2. 中等度(中期/FAST 5〜6 程度)

症状の傾向

  • 見当識障害(時間・曜日・場所が曖昧)や、服装選び・入浴など日常生活に支援が必要(例:季節に合わない服を着ようとする)。
  • BPSD(妄想や不安、幻覚、徘徊など)も出現しやすくなります。

実践的対応例

  • 安全環境の徹底
    • 家中の段差や滑りやすい床を整理し、転倒防止。鍵やガス栓は家族管理。徘徊リスクにはGPSタグや見守りサービスも活用。
  • BPSDへの感性・非薬物対応
    • 妄想例:「誰かが財布を盗った」と訴える場合、否定せず「お気持ちはわかります」と共感的に応対。安心する場所で静かに話を聞く環境を準備。
    • 回想法:音楽や昔の写真を用いて、「昔の思い出」を話題にし、情緒を安定させる取り組みが有効です。
    • 医療連携としては、非薬物療法を優先し、それでも困難な場合には医師と相談し薬物療法を検討するのがガイドライン上の推奨です。
  • 介護サービスとの連携
    • デイサービスや訪問介護の積極活用で、介護者の負担軽減と本人の刺激提供を両立。服薬管理として、薬剤師の訪問サービスの利用を。

3. 高度(末期/FAST 7 程度)

症状の傾向

  • 言葉が発せられず理解も困難、語彙は限られ「はい」「うん」のみ、笑顔も少なくなる。身体的機能(歩行・座位保持)も著しく低下。
  • 食事や排泄など全介助が必要、嚥下障害や褥瘡、感染症など身体合併症リスクも高い。

実践的対応例

  • 全介助体制の徹底
    • 誤嚥予防のため、食事は刻み・ミキサー食やとろみを調整。体位変換は2時間ごとに実施し褥瘡予防。清潔保持やスキンケアを念入りに。
  • 医療・緩和ケアとの連携
    • 訪問診療・訪問看護の導入により、疼痛管理や終末期ケアを実施。施設スタッフや家族が安心できる看取り環境を整えます(ケア専門職としても、終末期の意思決定支援が必要)。
  • 感覚に訴えるケア
    • 手を握る、声かけ、好みの音楽や香りを活用することで、言葉以外のコミュニケーションが可能になります。

総括:ステージに合った支援を続ける重要性

認知症ケアに携わる専門職(看護師・介護福祉士)による研究では、各ステージには「留意すべき関わり方」が明確にあり、早期には「介入のタイミングを見守る」、中期では「その人の言動に耳を澄ませ、関係を途切れさせない環境づくり」、末期には「穏やかな最期のための本人と家族への伴走」が重要であるとされています。

つまり大切なのは、

  • 軽度ではできることを尊重した自立支援と早期介入
  • 中等度では安全と情緒の安定を優先した生活の環境設計
  • 高度では全介助と感覚的なつながり、緩和ケアの導入を通じた看取りを。
    それぞれのステージで適切につなげていく 切れ目のないケア にあります。

参考文献一覧(出典)

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