はじめに
認知症のある方との外出は、「外に出るだけで不安」という方も多いでしょう。しかし、適切な準備をすれば、安全で心豊かな時間を過ごすことができます。外の空気を吸い、新しい刺激や季節を感じることで、認知症の方の気分が落ち着き、認知機能にも良い影響を与える可能性があります。本記事では、「準備」「同行」「帰宅後」の3段階に分けて、具体的かつ実践的なアドバイスをご紹介します。
1. 外出前の準備
1-1. 健康状態と安全の確認
- 体調のチェック
発熱、倦怠感、咳、むくみなどの体調の変化がないか確認しましょう。特に夏場の熱中症や冬場の体温低下に注意が必要です。 - 服薬状況の確認
認知症の方は複数の薬を服用されているケースが多く、外出により生活リズムが変わると薬の効果や副作用に影響が出ることがあります。抗認知症薬、血圧の薬、睡眠薬など、服用時間や食後・空腹時の注意などを事前に確認しましょう。 - 緊急時の連絡手段の確保
携帯やスマートフォンが持てる場合は必ず持参し、緊急時用の連絡先(ご家族・かかりつけ医・ケアマネージャーなど)を登録しておきましょう。持てない場合は、「SOSカード」や「迷子札」として名前・住所・連絡先などを記したものを身につけておくと安心です。
1-2. 行き先の選定と情報収集

- 目的地は無理のない距離と環境で
近場の公園や緑地、庭園などは、落ち着いた雰囲気で安心して楽しめます。なるべく人混みが少ない、バリアフリーの場所を選びましょう。また、トイレや休憩所の配置、安全柵の整備状況などもチェックしておくと安心です。 - 混雑状況と時間帯の確認
レストランや商業施設は、週末や祝日は混雑しやすく、認知症のある方にストレスとなることがあります。平日や開店直後、人が少ない時間帯を狙うとゆったり過ごせます。 - 地図や案内表示の確認
スマホや紙の地図で事前にルートを把握し、迷わないようにしましょう。屋外なら案内板の位置も把握し、安全な経路(段差の少ない道、滑りにくい舗装など)を選ぶことが大切です。
1-3. 持ち物リスト(準備チェック)
| 持ち物 | 内容 |
|---|---|
| 飲み物 | 水分補給用のペットボトルや水筒、夏場は保冷、冬は保温に注意 |
| 帽子・日除け具 | 紫外線対策、熱中症・日射病予防に |
| 予備の服 | 着脱しやすい上着、風よけ、寒さ対策用に1枚持参 |
| 常備薬・救急用品 | クスリ手帳・お薬手帳、絆創膏、消毒薬などの小さなキット |
| 迷子対策グッズ | SOSカード、IDブレスレット、GPS付き小型発信機(必要に応じて) |
| トイレ対策 | 離席困難な場合のための簡易おむつ・排泄用品(あれば) |
| スマホや連絡先メモ | 緊急時にすぐ連絡できるように備える |
| スナック・軽食 | 空腹時の不安や機嫌の悪化を防ぐために少量の甘いものなどを用意 |
このような準備をリスト化し、事前に確認することで安心感が高まります。
2. 外出中の安全・サポート
2-1. 同行の工夫とコミュニケーション
- スタッフや同行者の連携を
ケアスタッフやご家族と役割分担(歩行補助・荷物持ち・会話リードなど)を決めておくとスムーズです。 - ゆったりしたペースで移動
焦らず安全第一。歩幅を合わせ、同じ速度で歩くことや、立ち止まって周囲を確認しながら進む配慮が大切です。 - 安心できる声かけを意識
「一緒に行きましょう」「今ゆっくり歩いているからね」など、安心感と現在地の把握を兼ねた声かけを心がけて。急な方向転換や不穏状態を未然に防ぎやすくなります。
2-2. 周囲の環境への配慮
- 足元の安全確認
舗装がでこぼこ、濡れた床、階段などはつまづきや転倒のリスクがあります。歩く場所は慎重に選ぶように。 - 休憩のタイミングをこまめに
ベンチや日陰を使って、こまめに休憩を取りましょう。疲れやすい方には特に大切です。 - 刺激は控えめに、でも楽しく
人混みや騒音が苦手な方は避けつつも、自然音や景色、かわいい花や風の匂いといったささやかな刺激を共有することで、楽しい思い出になります。
2-3. 想定外の事態への対応
- 迷子・徘徊への備え
事前にスタッフ間や同行者と「はぐれた時の合図・集合場所」を決めておくと安心です。GPS発信機などを使用する場合は、電池切れの確認も忘れずに。 - 体調変化への即時対応
急に疲れた、気分が落ち着かない、具合が悪そうなときは、すぐにベンチや建物内に避難し、薬や飲み物で対応。無理をさせないことが最優先です。 - 帰りの計画も練っておく
早めに帰宅手段(交通機関の時間、車の待機場所など)を確認しておくと、急な帰宅にも対応しやすくなります。
3. 帰宅後のフォローと振り返り

3-1. クールダウンとコミュニケーション
帰宅後は、まず「今日は楽しかったね」「よく歩いたね」など、外出を肯定する言葉をかけ、安心感を与えましょう。熱中して疲れているかもしれないので、ゆったりした飲み物(ぬるめのお茶や白湯など)と、軽く手を貸して着替えなどをサポートすると良いです。
3-2. 振り返りと記録
- 成功点・改善点の記録:「今日は○○がよく応対できた」「□□では疲れそうだった」「△△が楽しかった様子だった」など、介護記録や次回の参考になる気づきをメモしておきましょう。
- 体調や気持ちの変化に注意:外出後に疲れたり、興奮状態が落ち着かなかったりする場合は、翌日の体調や睡眠の質、食欲などにも注意を払いましょう。
- 感情・関係性の変化にも注目:外出を通じて笑顔が見られた、会話が増えたなどのポジティブな変化があれば、次回のモチベーションにもつながります。
3-3. 次回に向けた準備
今回の振り返りをもとに、次回は「もう少し長い距離」「別の季節に庭園」「カフェでお茶も」など、少しずつ楽しみの幅を広げていけるよう計画を立ててみましょう。ただし焦らず、まずは成功体験の積み重ねを大切に。小さな成功が次への安心につながります。
まとめ
認知症の方との外出は、事前の健康チェックや持ち物の準備、環境の選定、そして同行者の役割分担など、小さな工夫の積み重ねが安全で楽しい経験をつくります。外出中はペース配分と声かけに配慮し、帰宅後には振り返りを行い、次の一歩につなげましょう。認知症の方本人とご家族・スタッフが「また行きたい」と思えるような外出の実現を応援します。
出典元
- 厚生労働省「認知症施策の推進」各種ガイドライン
- 日本認知症ケア学会「認知症ケアの基本的考え方」
- 日本医師会「高齢者医療・生活ガイドライン」
- 公益社団法人日本ケアマネジメント学会「家族介護支援マニュアル」
- 各種介護現場での実務経験より(当方ベテラン薬剤師・介護コンサルタントとしての経験含む)


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