認知症のスクリーニング検査とは?種類・流れ・受ける前に知っておきたい注意点

在宅

はじめに

「最近、母が同じことを何度も繰り返し言うようになって…。病院で“認知症かもしれない”と聞いても、どんな検査をするのか分からなくて不安でした」──これは、ある介護家族から聞いた言葉です。認知症の診断に進む前段階として行われる「スクリーニング検査」は、本人や家族にとってとても重要なステップですが、同時に「何をするのか」「どんな意味があるのか」が分からないと、不安や誤解を招くことも少なくありません。この記事では、認知症のスクリーニング検査を受ける前に知っておきたいポイントを、介護現場や薬剤師としての経験を交えながら整理していきます。


1. 認知症スクリーニング検査とは何か

スクリーニング検査とは、「認知症の可能性があるかどうかを見極めるための入り口」です。本格的な診断の前に行われ、記憶力や注意力、言葉の理解などを簡便に評価します。診断そのものではなく、“気づきのきっかけ”となる検査だと理解しておくと安心です。

代表的なものには、以下のような検査があります。

  • MMSE(ミニメンタルステート検査):30点満点で、時間や場所の見当識、計算、記憶、言語などを質問形式で確認します。
  • HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール):日本で広く使われており、記憶や計算、言語流暢性などを評価します。
  • 時計描画テスト:紙に時計を描いてもらい、その理解力や構成能力を確認します。

これらは数分から15分程度で実施でき、本人の負担も比較的少ないのが特徴です。


2. 検査を受ける意味

「うちの父は物忘れがあるけど、年齢のせいなのか認知症なのか、どこで線を引いたらいいのか分からない」という声もよく耳にします。まさにその“境界”を確認するのがスクリーニング検査の役割です。

  • 早期発見・早期対応:認知症の中には、薬や生活習慣の改善で進行を遅らせることができるケースもあります。
  • 本人と家族の安心:検査を受けることで「大きな問題はまだない」と確認できる場合もあります。
  • 多職種連携のきっかけ:医師や看護師、薬剤師、介護職が協力して支援を始める第一歩になります。

3. 検査前に知っておきたいこと

(1) 検査結果は“確定診断”ではない

スクリーニング検査はあくまで入り口であり、「点数が低い=必ず認知症」というわけではありません。睡眠不足、うつ状態、薬の副作用などでも点数が下がることがあります。

(2) 緊張や体調で結果は変わる

検査当日は緊張して思うように答えられなかったり、体調不良で集中できなかったりすることもあります。1回の結果だけで判断せず、医師は経過観察や追加検査を組み合わせて診断を行います。

(3) 薬の影響にも注意

薬剤師の立場から伝えたいのは、服用している薬が記憶や注意に影響を与えることがあるという点です。睡眠薬や抗不安薬、抗コリン作用を持つ薬は特に注意が必要で、検査を受ける際は必ず服薬状況を伝えてください。


4. 家族が準備しておくと良いこと

(1) 普段の生活の様子を記録する

「どのくらいの頻度で物忘れがあるのか」「料理や買い物など日常生活に支障が出ているか」などをメモしておくと、医師が評価する際に役立ちます。

(2) 服薬情報を整理して持参する

お薬手帳は必ず持参し、可能なら過去の処方や健康診断の結果もまとめておくと、認知症以外の原因を見極めやすくなります。

(3) 家族の不安や疑問をリスト化する

「検査後はどうなるのか」「介護サービスを使えるのか」など、あらかじめ質問をまとめておくと受診時に聞き漏らしを防げます。


5. 検査を受けた後の流れ

スクリーニング検査で“疑いあり”となった場合には、さらに専門的な検査が行われます。

  • 画像検査(MRIやCT):脳の萎縮や血管障害の有無を確認。
  • 血液検査:甲状腺機能低下症やビタミン欠乏など、認知症と似た症状を示す病気を除外。
  • 神経心理学的検査:より詳細な記憶や認知機能を評価。

必要に応じて、地域包括支援センターや訪問看護ステーションと連携し、生活支援や介護サービスの利用につながっていきます。


6. 家族が心に留めておきたいこと

認知症は本人だけでなく、家族や周囲の生活にも大きな影響を及ぼします。だからこそ、検査を受ける前に「これは確定診断ではなく、生活を支えるための第一歩」という心構えを持っておくことが大切です。

ある介護家族はこう話していました。「検査を受けるのは怖かったけれど、受けてみたら“これからどう支えていくか”を考えるきっかけになりました」。検査はゴールではなく、より良い支援につながる入口なのです。


まとめ

認知症のスクリーニング検査は、早期発見や生活支援につながる大切なステップです。検査そのものは簡便で、負担は少ないものの、結果をどう受け止めるかが重要になります。家族としては、日常の様子や服薬情報を整理して受診に臨むことで、診断や今後のケアに大きく役立てることができます。検査を恐れるのではなく、「安心して生活するための準備」と捉えていただければと思います。


出典元

  • 日本老年精神医学会「認知症の診断と治療」
  • 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」
  • 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)関連資料
  • Mini-Mental State Examination (MMSE) 原著論文
  • 日本認知症学会 公式サイト

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