認知症と口腔ケアの深い関係|誤嚥性肺炎を防ぐケアの基本

在宅

はじめに:現場で感じた「口腔ケアの大切さ」

私が介護施設に薬を届けたある日のことです。
ちょうどそのとき、施設の利用者さんが歯科医による訪問診療を受けていました。
施設長と会話する中で、「誤嚥性肺炎で入院した利用者さんもいて、今は歯科医に定期的に口腔内チェックをお願いしているんだよ」と話されました。

誤嚥性肺炎は、高齢者にとって命にかかわる重大なリスクです。その瞬間、薬の管理だけではなく、日常の口腔ケアや嚥下(飲み込み)機能のサポートがいかに重要かを改めて実感しました。
この記事では、現場経験を踏まえながら、認知症のある高齢者に必要な口腔ケアの基本と、誤嚥性肺炎を防ぐための実践ポイントをわかりやすくお伝えします。


1. 認知症と誤嚥性肺炎の深い関係

1-1. 認知症が嚥下機能に与える影響

認知症が進行すると、口腔や咽頭、舌の動きが鈍くなり、嚥下機能(飲み込む力)が低下します。

  • 食べ物をうまく噛めない
  • 口の中に食べ物が残る
  • 飲み込むタイミングが遅れる

こうした変化が重なり、誤嚥(飲み込むべきでないものが気管に入ること)のリスクが高まります。

1-2. 誤嚥性肺炎とは

誤嚥性肺炎は、口腔内や咽頭の細菌を含んだ唾液や食物が気管に入り、肺で炎症を起こす病気です。
特に認知症の方は咳反射の鈍化症状を伝えにくいことが重なり、発見が遅れやすい特徴があります。


2. 口腔ケアが誤嚥性肺炎を防ぐ理由

2-1. 細菌コントロール

口の中は細菌が繁殖しやすい環境です。
特に、歯磨きが不十分だったり義歯の手入れができていない場合、細菌が増えて誤嚥時に肺へ入りやすくなります。
フロスやべろの掃除を含めた丁寧なケアは、細菌の数を減らし、肺炎予防に直結します。

2-2. 舌や嚥下機能の活性化

舌の汚れを除去し、口腔内の感覚を保つことは、嚥下力の維持にもつながります。
舌が清潔で動きやすい状態を保てば、食べ物をうまくまとめて飲み込めるようになります。


3. 基本の口腔ケア

3-1. 歯磨きとフロス

  • 朝食後・就寝前の歯磨きは欠かさない
  • 柔らかめの歯ブラシで優しくブラッシング
  • 歯と歯の間に残る汚れはフロスや歯間ブラシを使って丁寧に除去

フロスは「介助が必要で面倒」というイメージがありますが、1日1回夜のケア時に行うだけでも細菌の減少に効果があります。


3-2. べろの掃除(舌清掃)

舌の表面には細菌や食べカスが溜まりやすく、口臭や誤嚥性肺炎の原因になります。

  • 専用の舌ブラシで優しくこする
  • 1日1回、朝のケア時がおすすめ
  • 強くこすりすぎず、優しく奥から手前へなでるように

3-3. 潤いを保つケア

ドライマウス(口の乾燥)は、口腔トラブルや嚥下不良を招きます。

  • 水分補給をこまめに促す
  • 唾液腺マッサージを取り入れる
  • 保湿ジェルで口腔内の乾燥を防ぐ

3-4. 嚥下力のチェック

日常的に「嚥下力のチェック」をすることも大切です。

  • 水やお茶を飲んだときにむせないか
  • 食後に声がガラガラになっていないか
  • 食べ物が口に残る様子がないか

少しでも異常を感じたら、歯科医師や言語聴覚士に相談して、嚥下機能訓練を取り入れるとよいでしょう。


4. 食事の時の姿勢が誤嚥リスクを減らす

4-1. 正しい姿勢

誤嚥を防ぐためには、食事の姿勢も重要です。

  • 背筋をまっすぐに保つ
  • 足が床にしっかりつく位置で座る
  • 顎を軽く引く(うつむき気味の姿勢)

姿勢を整えることで、食べ物が食道にスムーズに流れやすくなります。

4-2. 食後のケア

  • 食後30分程度は上体を起こした姿勢を保つ
  • 口腔内に食べ残しがないかチェックし、必要ならフロスで除去
  • べろの掃除で舌に残った食べカスを取り除く

5. 介護者が実践しやすい工夫

5-1. コミュニケーションの工夫

  • 「歯磨きしよう」ではなく、「一緒に口をきれいにしよう」と声かけ
  • 歯ブラシや舌ブラシを「お口のお掃除グッズ」と親しみやすく紹介
  • ケア後に「口の中が気持ちいいね」と共感する声をかける

5-2. チームでの情報共有

介護現場では、情報共有が安全なケアの鍵です。

  • ケア記録に「今日は嚥下力チェックでむせなし」「舌の汚れ少なめ」といったコメントを残す
  • 気づきをチーム全体で共有し、口腔内の変化に早期対応

6. 専門職との連携が生む安心

認知症ケアは、家族や介護職だけでは完結しません。
歯科衛生士、歯科医師、言語聴覚士、薬剤師が連携することで、より安全で質の高いケアが実現します。

  • 歯科衛生士:歯や義歯の専門的ケア、舌や口腔内のチェック
  • 言語聴覚士:嚥下訓練や食事指導
  • 薬剤師:薬の副作用による口腔乾燥や嚥下への影響を評価

7. まとめ

ケア項目ポイント期待できる効果
歯磨き・フロス1日2回以上細菌減少・肺炎予防
べろの掃除朝のケア時舌機能維持・口臭予防
潤いケア水分補給・保湿ドライマウス予防
嚥下力のチェック毎日の観察早期異常発見
食事の時の姿勢顎を引いて背筋を伸ばす誤嚥防止・食事効率UP
専門職との連携定期チェック安全なケア体制

終わりに

認知症高齢者にとって口腔ケアは、食べる楽しみを守ること、そして命を守ることに直結します。
日常の中でできる小さなケアを積み重ね、専門職と連携しながら、安全で dignified(尊厳を大切にした)ケアを続けていきましょう。


出典・参考資料

  • 厚生労働省「高齢者の口腔ケアガイドライン」
  • 日本歯科衛生士会「高齢者口腔ケアマニュアル」
  • 日本老年医学会「誤嚥性肺炎の予防に関する提言」
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会監修資料
  • 歯科衛生士・薬剤師としての現場経験

コメント

タイトルとURLをコピーしました