― 現場を動かすリーダーに求められる、伝える力の再定義
はじめに
管理薬剤師として部下と関わる中で、こんな経験はありませんか?
- 「もっと早く相談してくれれば…」
- 「報告が抜けてトラブルになった」
- 「連絡が一方通行で、確認に追われる」
現場ではよく「報連相(ほう・れん・そう)」の重要性が説かれますが、それでもトラブルやすれ違いが絶えないのはなぜでしょうか。
実は、「報連相」を部下に求めるだけでは、うまくいかない時代に入っています。
そこで今、管理薬剤師に必要とされているのが「相談設計」という技術です。
「報連相」の限界とは
報連相は、組織における基本的なコミュニケーションの型として知られています。それぞれの意味は以下の通りです。
- 報告:仕事の進捗や結果を上司に伝える
- 連絡:関係者に必要な情報を共有する
- 相談:判断に迷ったとき、意見を求める
しかし、現実には次のような問題が起こっていませんか?
- 部下が「相談」のタイミングを迷って、事後報告になってしまう
- 「連絡」の量が多く、要点が埋もれてしまう
- 上司の意図が伝わらず、報告の内容がズレてしまう
これはすべて、「報連相の“型”を形式的に守っているだけで、目的が共有されていない」という構造の問題です。
「相談設計」とは何か?

「相談設計」とは、現場の動きを見越して、部下と“どのような対話を設計するか”を意図的に考えるマネジメント技術です。
つまり、部下が自然に「相談したくなる」ような環境・タイミング・問いかけ・流れをあらかじめデザインするという考え方です。
報連相が“受け身の型”だとすれば、相談設計は“能動的な仕掛け”です。
例えば、以下のような工夫が「相談設計」にあたります:
- 月初の面談で「今月困りそうなことは?」と先に問いかける
- OJT中に「これはどの場面で使えると思う?」と意見を引き出す
- 報告に対して「このまま進めてもいいと思う?懸念はある?」と再確認する
こうした仕掛けがあると、スタッフの中に「相談してもいい」「考えてもいい」という心理的な余白が生まれます。
なぜ管理薬剤師に「相談設計」が必要なのか?
薬局の現場には、次のような複雑な要素が絡んでいます。
- 複数の医師、介護職、看護師との連携
- 厳密な法規制と、柔軟な判断の両立
- 多職種の業務理解と、患者本位のサービス
このような場で「自分で考えて動ける人材」を育てるには、指示や報告のやりとりだけでは限界があります。
「なぜその判断に至ったか?」
「他の選択肢は検討したか?」
「リスクがあるとしたらどこ?」
こうした問いかけを日常的に織り込むことで、スタッフの中に“考える習慣”が根づいていきます。
「相談設計」の実践ステップ

ステップ①:目的の明確化
まず、「なぜ相談してほしいのか」を自分自身で言語化します。
- トラブルを未然に防ぎたい
- 現場判断を育てたい
- チーム全体で共有する文化をつくりたい
目的が明確になれば、どんな相談が必要なのかが見えてきます。
ステップ②:問いの設計
次に、「どんな問いを投げかけるか」を意識します。
NG例:「何かあったら相談してね」
OK例:「〇〇の処方が来たら、どう対応するか一度話そうか」
NG例:「何か困ってることある?」
OK例:「今月の患者対応で不安なケースある?」
具体性とタイミングが「相談の質」を左右します。
ステップ③:場の習慣化
最後に、「相談がしやすい場を日常に組み込む」ことが必要です。
- 朝礼で「昨日の気づき」を共有
- 週1回の1on1で進捗と不安のチェック
- “報告”の最後に「相談事項はある?」と毎回聞く
相談は“イベント”ではなく、“習慣”にしなければ意味がありません。そのためには、管理者側がまず「構造」をつくる必要があります。
管理薬剤師が身につけたい3つの相談設計マインド
- 「答えを教える」から「問いを返す」へ
→ スタッフが考える余白を残す - 「報告を待つ」から「動線を仕込む」へ
→ 先回りして声をかける - 「ミスを防ぐ」から「成長を促す」へ
→ ミスの報告=学びのチャンスと捉える
おわりに
薬局マネジメントは「人」がすべてです。だからこそ、報告・連絡・相談といった一方向のやりとりでは限界が来ます。
今、管理薬剤師に求められているのは、「報連相を仕組みに変える力」。すなわち、「相談設計」という新しいリーダーシップのかたちです。
報告が集まりにくい、ミスが減らない、スタッフの成長が感じられない──そんな現場にこそ、この技術を活かしてみてください。
“相談されるリーダー”から、“相談が育つ現場”へ。
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