珍しい認知症の種類と特徴|正常圧水頭症・進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・ハンチントン病・クロイツフェルト・ヤコブ病

認知症

はじめに

「母の様子が少しずつ変わってきて、最初はアルツハイマー型認知症かと思いました。でも医師から伝えられた診断は『進行性核上性麻痺』。正直、初めて聞く病名で戸惑いました。」
介護に携わるご家族や現場の職員の中には、こうした経験をされた方も少なくないと思います。認知症というと「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「血管性認知症」「前頭側頭型認知症」のいわゆる4大認知症がよく知られていますが、それ以外にも認知機能の低下を引き起こす疾患があります。数は少ないものの、症状や進行の仕方が大きく異なるため、正しく理解しておくことが大切です。

今回は「4大認知症以外の認知症」として、正常圧水頭症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病の5つを取り上げ、特徴や診断の流れをわかりやすく整理しました。


1.正常圧水頭症(NPH)

正常圧水頭症は、脳脊髄液が脳室内にたまり、脳を圧迫することで認知機能低下を引き起こす病気です。特徴的なのは、以下の「3徴候」と呼ばれる症状です。

  • 歩行障害:小刻み歩行やすり足歩行が見られる。頻度は高く9割以上あり。
  • 認知機能低下:記憶障害や判断力の低下
  • 尿失禁:トイレまで我慢できない

この3つが同時に出現する場合、正常圧水頭症が疑われます。
診断にはMRIやCTでの画像検査が用いられ、脳室の拡大が確認されます。さらに「髄液排除試験(タップテスト)」で症状が改善するかどうかをみることが重要です。
適切に診断されれば**シャント手術(脳室から腹腔に管を通して髄液を排出する方法)**で改善が期待できる数少ない認知症関連疾患のひとつです。一方、健常者のレベルまで改善は多くないとも言われています。


2.進行性核上性麻痺(PSP)

進行性核上性麻痺は、パーキンソン病に似た症状を示す神経変性疾患です。発症は60歳前後が多く、進行は比較的早いとされています。

主な特徴は以下の通りです。

  • 眼球運動障害:上下方向に目を動かすのが難しくなる
  • 姿勢障害と転倒:すくみ足と突進歩行。姿勢保持も苦手で転ぶとき、手をつくなど防御反応が見られず、顔面を直撃する。
  • 認知機能障害:前頭葉機能の低下による思考や性格の変化、実行機能障害を伴う

アルツハイマー型のような記憶障害よりも、行動やバランスの変化から異常に気づかれるケースが多いです。発症から10年程度で、肺炎や痰による窒息で死亡に至るケースが報告されている。
確定診断は難しく、臨床症状や画像検査(MRIで脳幹部の萎縮を確認)をもとに総合的に判断されます。残念ながら有効な根本治療は確立しておらず、対症療法やリハビリが中心となります。


3.大脳皮質基底核変性症(CBD)

大脳皮質基底核変性症は非常に稀な神経変性疾患で、進行性核上性麻痺と同じように「パーキンソニズム(パーキンソン病に似た症状)」を呈します。

代表的な症状は以下のようなものです。

  • 一側の手足が動かしにくくなる(左右差がある)。動作緩慢や転倒を起こしやすい
  • 動作がぎこちなくなる、固縮、手が勝手に動く「他人の手」兆候。
  • 失行(道具の使い方がわからなくなる)
  • 認知機能低下:特に注意・遂行機能の障害が目立つ。人格変化。

全経過は5~10年で死因は誤嚥性肺炎や寝たきりによる全身衰弱が多いとされています。
CBDも診断は難しく、MRIや臨床経過から推定されることが多いです。残念ながら有効な治療はなく、リハビリや対症療法で生活機能を保つ支援が中心となります。


4.ハンチントン病

ハンチントン病は遺伝性の神経変性疾患で、若年から中年で発症することが多いです。常染色体優性遺伝のため、親から子へ50%の確率で遺伝する可能性があります。

主な症状は以下の通りです。

  • 舞踏運動:手足や顔が勝手に動いてしまう不随意運動
  • 認知機能障害:記憶障害よりも遂行機能や人格変化が目立つ
  • 精神症状:抑うつや不安、興奮、脱抑制、暴力行為、自殺企図

遺伝子検査で診断が確定しますが、遺伝に関する心理的負担は大きく、本人だけでなく家族への配慮が欠かせません。治療は対症療法が中心で、薬物療法に加えて精神的サポートや社会的支援が重要です。


5.クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)

クロイツフェルト・ヤコブ病は、異常プリオン蛋白の蓄積によって脳がスポンジ状に変性する致死性疾患です。5類感染症に分類されています。進行が非常に早く、数か月で認知症を合併し1~2年で死亡に至ります。

症状の特徴は以下です。

  • 急速な認知機能低下
  • ミオクローヌス(体の一部がピクッと動く症状)
  • 運動障害や視覚障害

診断には脳波検査(特有の周期性放電)、MRI、髄液検査(プリオン蛋白の検出)が用いられます。残念ながら有効な治療法はなく、緩和的ケアが中心です。感染性があるため、医療現場では適切な感染対策も必要とされます。


まとめ

今回紹介した 正常圧水頭症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病 は、いずれも4大認知症と比べると知名度が低く、診断までに時間がかかることが多い疾患です。

  • 正常圧水頭症は手術で改善が期待できる
  • PSPやCBDは転倒リスクが高く、リハビリや環境調整が重要
  • ハンチントン病は遺伝性疾患で、家族全体へのサポートが必要
  • クロイツフェルト・ヤコブ病は急速に進行し、緩和ケアが中心

ご家族にとっては聞き慣れない病名ばかりで戸惑うかもしれません。しかし、病気の特徴を理解することで、適切な診断やケアにつながりやすくなります。介護者自身が抱え込まず、医療・介護の専門職に早めに相談することを強くおすすめします。


出典元

  • 日本神経学会「認知症疾患治療ガイドライン2023」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット
  • アルツハイマー病協会(Alzheimer’s Disease International)
  • 国立精神・神経医療研究センター「神経変性疾患情報」
  • 世界保健機関(WHO) Dementia Fact Sheets

コメント

タイトルとURLをコピーしました