「母の薬の種類がどんどん増えていって、正直管理しきれなくなっていました。」
ある介護家族の方は、そんな不安を抱えていました。朝・昼・夜と複数の薬を準備し、飲ませ忘れないよう必死にスケジュールを立てる日々。それでも、「どの薬がどの症状に効くのか分からない」「本当にこんなに必要なのか」という疑問は消えませんでした。
思い切って薬剤師に相談し、「減薬を希望している」と伝えたところ、薬剤師が主治医に処方見直しを提案。結果として、薬の種類は半分に減り、管理が一気に楽になったそうです。「薬が減っただけで、母も楽そうだし、私も気持ちが少し軽くなりました」と話してくれました。
服薬管理は、家族が日々の介護で直面する課題のひとつです。飲み忘れや重複服用を防ぐため、そして薬の効果を最大限に活かすためには、正しい知識と工夫が欠かせません。本記事では、薬剤師と介護者の視点から、家族が押さえておきたい服薬管理のコツを詳しく解説します。
1. 医師・薬剤師との連携を徹底する

- 処方内容を家族で共有する
医師から処方された薬の名称、用法・用量、服用タイミング(食前・食後など)、服用期間は、ご家族でしっかり共有しておきましょう。薬局で薬剤師から説明を受けた内容も記録に残すと、複数人で確認しやすくなります。 - 「薬の目的」「注意点」を確認する
同じ薬でも目的が違えば、注意点も異なります。例えば、降圧剤なら低血圧リスク、向精神薬なら眠気・転倒の可能性など。それぞれの薬が何に使われているかを理解することで、不安や迷いが軽減されます。
2. 服薬スケジュールを「見える化」する
- カレンダーやチェックシートを活用
介護記録ノートやホワイトボード、手帳に「朝・昼・夕・就寝前」などの欄を設け、薬を飲んだらチェックをつける方法は非常に有効です。単に手書きでも十分ですが、スマホのリマインダーや介護アプリを活用すると、さらに確実になります。 - 一週間分をまとめて仕分ける
週ごとにポーション(分包)やお薬カレンダーに分けておくことで、誤飲のリスクが下がり、服薬状況が一目で把握できます。薬剤師に依頼すれば、薬局で一週間分ごとに仕分けしてくれるサービスを利用できることもあります。
3. 副作用・相互作用に要注意
- 服用中に「いつもと違う症状」が出たら記録する
発疹、めまい、吐き気、異常な眠気などは、副作用の可能性があります。いつ、どの薬を飲んだ後に症状が出たかを時系列で記録しておくと、医師や薬剤師も判断しやすくなります。 - サプリメント・市販薬との併用にも注意
サプリメントや風邪薬、胃薬など、市販薬との併用により相互作用や血中濃度の変化を引き起こすことがあります。必ず相談して、安全を確保するようにしましょう。
4. 服薬コンプライアンス(遵守)を支える工夫

- タイマーやアラームで忘れ防止
「服用予定だったのに飲み忘れた」はよくある問題です。スマートフォンのアラームやキッチンタイマー、服薬管理専用アプリなどを利用して、タイミングで通知が来る仕組みを作りましょう。 - 飲み忘れたときのルールを決めておく
例えば「朝の薬を忘れたら、お昼に2倍飲まない」「気づいたらすぐに飲むが、次の服薬時間を考慮する」など、医師・薬剤師に確認したうえでルールを明文化しておくと安心です。
5. 薬の保管方法と整理整頓
- 湿気・直射日光・高温を避ける
薬の劣化を防ぐため、高温多湿・直射日光は避け、冷蔵保存が必要な薬は冷蔵庫へ。薬ごとに保存方法が異なる場合があるため、薬袋や添付文書で確認します。 - 子どもの手の届かない場所に収納
誤飲防止のため、認知症の方や小さなお子さんがいる場合は「子どもの手が届かない場所」に収納することが重要です。ラベルを貼り、「開封済」「要冷蔵」といった注意書きを目立つ形で示すのも有効です。
6. 介護現場でのコミュニケーション方法
- スタッフ間で服薬記録を共有する
複数人で介護を行っている場合、一人が見落とすリスクがあります。デジタル記録や共有ノートを活用し、「最後に誰が、どの薬を飲ませたか」を明確にすると、トラブル防止につながります。 - 定期的な見直しを心がける
服薬管理は一度決めたら終わりではありません。食事形態や飲み込みの状態、副作用の有無によって、タイミングや剤形(錠剤/粉薬/液剤など)を見直す必要があります。医師・薬剤師と定期的に話し合い、最適化を続けましょう。
7. 介護ストレスを減らす方法

- 外部支援の活用
在宅介護のご家族は負担が大きくなりがちです。訪問看護や地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談すれば、服薬のフォローや日常生活の支援が受けられることもあります。 - 記録を家族会議に活用
服薬記録を共有すれば、家族内の意思疎通がスムーズになります。本人も含めた家族会議で、「今日の服薬状況」や「体調の変化」を共有すると、服薬管理への参加意識も高まります。
まとめ
服薬管理は、ご家族や介護関係者が安全・安心に介護を行うための基盤です。
押さえておくべきポイントは以下の通りです。
- 医師・薬剤師との連携を徹底する
- スケジュールを「見える化」する
- 副作用・相互作用に注意し、記録を残す
- 忘れ防止の仕組みとルールを整える
- 薬の保管と整理整頓を徹底する
- 情報を共有し、定期的な見直しを行う
- 外部支援や家族会議で負担を軽減する
服薬管理を一人で抱え込まず、医療職や地域支援をうまく活用しながら、「安全で続けやすい仕組み」を整えていくことが、介護生活を少しでも楽にする近道です。
出典・参考文献
- 厚生労働省「高齢者の服薬管理に関する指針」
- 日本薬剤師会「訪問薬剤管理指導に関する手引き」
- 医療・介護現場での薬剤師業務経験に基づく一般的知見


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