在宅介護は、家族にとって大きな愛情と責任を伴います。しかしその一方で、身体的・精神的、さらには経済的な負担が積み重なり、介護する人自身の生活や健康に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。介護者が疲弊すれば、結果的に介護を受ける本人の生活にも影響します。ここでは、特に排泄・入浴・食事や服薬介助、車いす移乗など日常介護で負担が大きい場面や、経済的な負担、仕事や育児との両立など、よく相談されるテーマに焦点を当て、家族が疲弊しないための工夫を解説します。
1. 介護負担の「見える化」
まず大切なのは、自分がどのような負担を抱えているかを正しく把握することです。介護は「気づかないうちに無理をしている」ことが多いため、日々のケア内容や所要時間を記録することで、負担の全体像を把握できます。例えば、排泄介助に一回30分以上かかっている、入浴に介助者が2人必要、といった具体的な状況を把握することで、支援サービス導入の必要性が明確になります。
ある介護者は「毎日の排泄記録をつけることで、自分が一日中トイレのことばかり気にしていると気づき、デイサービス利用を検討するきっかけになった」と話しています。見える化は、現状を客観的に把握し、改善策を考える第一歩になります。
2. 排泄介護の工夫

排泄は介護負担の中でも特に大きい項目です。夜間のトイレ介助で睡眠不足になる、失禁対応で洗濯が増えるなど、家族の疲労に直結します。さらに、介助の際に本人を支える必要があり、腰痛や転倒リスクも高まります。
- ポータブルトイレや尿器の活用:寝室近くに設置することで移動負担を減らせます。
- 排泄予測センサー:センサーが排泄のタイミングを知らせることで、介助の効率化につながります。
- オムツやパッドの適切な選択:吸収力や肌への負担を考慮し、本人に合った製品を選ぶことが重要です。
実際に「夜中に何度も起きてトイレに連れて行っていたが、ポータブルトイレを導入したことで睡眠時間が増え、気持ちに余裕ができた」という介護者の声もあります。
3. 入浴介護の工夫
入浴は体力的にも精神的にも負担が大きく、「滑って転倒するのでは」と不安を抱える家族も少なくありません。特に体重のある方を浴槽へ移乗させる場面では、介護者の腰や腕に大きな負担がかかります。
- 入浴用リフトやシャワーチェアを利用することで、介助者の腰痛予防になります。
- デイサービスの入浴支援を利用すれば、専門職による安全な入浴が可能となり、家族も休養できます。
「浴室で転倒しそうになった経験から、怖くて一人では介助できなくなった。デイサービスの入浴を利用し始めて、安心して任せられるようになった」という事例もあります。入浴は安全性の確保が何より大切です。
4. 車いす移乗や身体介助の負担
ベッドから車いす、車いすからトイレや浴槽への移乗は、介護者にとって大きな身体的負担です。特に体重を支える必要がある場合、介護者の腰痛や転倒事故のリスクが高まります。
- スライディングボードやリフトの利用:本人の体重を直接支えずに移乗できるため、介護者の負担が大幅に減ります。
- 介護技術の習得:地域包括支援センターや介護教室で正しい移乗方法を学ぶことが事故防止につながります。
「母を抱え上げようとして一緒に転びそうになり、本当に怖かった。リフトを導入してから安心して介助できるようになった」という家族の声は少なくありません。
5. 食事介助と服薬介助

食事や服薬は毎日の繰り返しであり、介護者の根気が必要です。
- 食事介助:嚥下機能が低下すると、むせや誤嚥が心配になります。とろみ剤を使う、食材を刻む、食器の工夫をするなどでリスクを軽減できます。ある家族は「食事に1時間以上かかり、家事が進まなかったが、嚥下調整食を導入したことで時間も短縮でき、安心感も増した」と話しています。
- 服薬介助:薬を嫌がる、飲み込めないといった問題がよくあります。一包化調剤や服薬カレンダーを利用すれば、飲み忘れや誤飲を防げます。ある介護者は「薬をどれだけ飲んだか確認に追われていたが、薬局で一包化してもらってから管理が一気に楽になった」と語っています。
6. 経済的負担への対応
介護サービス利用料、施設入居費、介護福祉用具の購入やレンタルなど、経済的な負担も介護疲れの大きな要因です。
- 介護保険の活用:自己負担は原則1~3割で済むため、上手に利用すれば出費を抑えられます。
- 高額介護サービス費制度:自己負担額が一定額を超えると払い戻しが受けられる制度です。
- 福祉用具レンタル:購入ではなくレンタルを選ぶことで費用を大幅に抑えられる場合があります。
「ベッドや車いすを購入せずレンタルにしたことで、思った以上に経済的負担が軽くなった」といった声も多く聞かれます。
7. 仕事や育児との両立
介護世代の多くは、仕事や子育てと並行して介護を担っています。いわゆる「ダブルケア」に直面する家庭も少なくありません。
- 介護休業制度・介護休暇制度を利用し、仕事との両立を図ることが可能です。
- 職場に状況を伝えることで、理解や配慮を得やすくなります。
- 在宅勤務制度を活用して、柔軟に介護と両立している人もいます。
「小学生の子どもと認知症の母の介護を同時に担い、心身ともに限界だったが、介護休暇を使うことで一息つけた」というエピソードは、同じ立場の人に大きな共感を呼びます。
8. 徘徊への対応
認知症の方の徘徊は、介護者にとって大きなストレス要因です。夜中に突然外に出て行こうとしたり、帰宅できずに警察に保護されることもあります。
- GPS付きの靴や見守りサービス:居場所がわかることで安心できます。
- 玄関の工夫:鍵の位置を高くしたり、目印を外すことで外出を防げます。
- 地域との連携:近隣住民や自治体の「徘徊SOSネットワーク」に登録するのも有効です。
「父が夜中に徘徊して行方不明になったが、地域の見守りネットワークのおかげですぐに見つかった」という家族の声は、地域とつながる大切さを教えてくれます。
9. 介護者自身のセルフケア
介護を長く続けるには、介護者自身の健康維持が欠かせません。
- 十分な睡眠と休養:ショートステイやデイサービスを利用して休養を確保することが必要です。
- 趣味や外出の時間を持つことで、心のバランスを保てます。
- 同じ立場の人との交流:家族会や介護者の会で共感や情報交換が得られます。
「介護者の集まりに参加して、自分だけが大変なのではないと知り、心が救われた」という体験談も少なくありません。
10. 専門職への相談
困ったときには、介護支援専門員(ケアマネジャー)、地域包括支援センター、主治医、薬剤師などに早めに相談しましょう。抱えている問題を共有するだけでも気持ちが整理され、解決策が見えてきます。

まとめ
介護負担は「排泄」「入浴」「移乗」「食事」「服薬」「経済的な出費」「仕事や育児との両立」「徘徊対応」といった具体的な場面で顕著に現れます。だからこそ、一人で抱え込まず、サービスや制度、福祉用具を積極的に活用し、地域や家族と協力することが大切です。介護者が倒れないことこそ、本人にとっても最良の支援につながります。安心できる環境を整え、介護を続けられる仕組みを一緒に作っていきましょう。
出典
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188454.html
- 厚生労働省「在宅医療・介護の取り組み」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188464.html
- 日本老年医学会「高齢者の薬物療法」 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/
- 朝日生命保険「介護に関する実態調査」 https://www.asahi-life.co.jp/
- 認知症ケア学会誌、介護現場での実践報告 等


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