はじめに
「薬剤師として在宅介護に関わる中で、ほかの多職種とどのように連携すればいいのか、正直イメージがつきませんでした。どのような方法やツールで情報を共有したらいいのかもわからなかったんです。でも、あるときサービス担当者会議に参加して、共有ツールの存在を知りました。オンラインミーティングの活用方法や、**MCI(多職種情報共有システム)**といった仕組みがあることを学び、初めて“連携ができる”という実感を持てたんです。」
このような声は、薬剤師だけでなく、訪問介護スタッフや看護師、そしてご家族からも多く聞かれます。
在宅介護は、一人では抱えきれない課題が多く、多職種連携の必要性を強く感じながらも、「どう動けばいいのか」「何を使えば効率的なのか」がわからず、情報共有が滞ることも少なくありません。
本記事では、在宅介護を支える家族が主体となってできる情報共有のコツや、チームケアをスムーズに進めるための具体的なステップを、経験に基づいてわかりやすく解説します。
1. 多職種連携がなぜ必要か — “なぜ”を理解する
(1)役割の重複と連携不足によるリスク
- 医師が処方した薬について薬剤師がレビューできる一方、ご家族がその情報を把握できず、服薬ミスや過剰管理につながるケースがあります。
- 訪問看護師とヘルパーがスケジュールを個別管理していて、時間が重複したり、逆に訪問が抜けたりするトラブルも。
(2)ご家族の負担を減らすために
- ケアに関する情報が整理され、チーム全員で共有されていれば、「誰が・いつ・何を行うか」が明確になり、介護者の心身の負担を軽減します。
2. ご家族ができる情報共有のポイント

(1)共有ツールの活用
- 紙の共有ノート
介護スペースに設置し、訪問職員が状況をその場で記録できるようにします。 - オンラインツール
Googleドキュメントやスプレッドシートでリアルタイム共有。スマホ操作に慣れている家族におすすめです。 - オンラインカレンダー
Googleカレンダーで訪問予定や服薬スケジュールを可視化。 - LINEグループ
スタンプや短い文章で即時共有でき、緊急連絡にも便利です。
3. 多職種連携を円滑に進める工夫
(1)定期的な連絡・調整の場を設ける
- サービス担当者会議
月1回のミーティングで現状を整理し、方針を確認。 - オンラインミーティング
移動時間が省けるため、参加率が高まり、情報のタイムリーな更新につながります。
(2)窓口を一本化する
- ご家族の代表を決めて情報を集約すると、伝達ミスが減ります。
(3)専門用語を噛み砕いて伝える
- 医療職に相談するときは、難しい表現を避け、具体的に記録しましょう。
例:「動きが鈍い」→「最近、歩くスピードが遅くなった」
(4)MCI(多職種情報共有システム)の活用
- 施設や地域によっては、MCIを導入しているところもあります。
薬の変更履歴や訪問記録が自動で共有されるため、リアルタイムで情報が更新でき、誤解や伝達漏れを防ぎます。
4. 実例:情報共有で変わった在宅介護

ケース
78歳男性、軽度認知症あり。夜間の転倒歴が1回。訪問看護と訪問介護を併用中。
実践
- Googleカレンダーで訪問予定と薬のスケジュールを家族全員が確認。
- LINEグループで日々の状態を共有。
「今朝はふらつきが強め。朝食は半分しか食べられず。」 - MCIで主治医・薬剤師・看護師が状態をタイムリーに記録し、変更履歴を全員で確認。
- サービス担当者会議では、その情報をもとに次月のケア方針を再検討。
結果
- 転倒リスクが共有され、訪問時間を調整。
- 薬剤師が服薬指導を見直し、副作用によるふらつきが軽減。
- 家族の心理的負担も軽くなり、介護への安心感が高まった。
5. 家族が取り組むステップ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 準備 | 共有ノート・LINE・カレンダー・MCIなど使いやすいツールを選定 |
| ② 記録 | 服薬・食事・睡眠・体調の変化を簡潔にまとめる |
| ③ 共有 | 必要な情報をタイムリーに送信、必要なら写真も添付 |
| ④ フィードバック | 専門職からの指示・助言を反映 |
| ⑤ 改善 | ツールや記録項目を定期的に見直し、効率化を図る |
6. 注意点
- プライバシー保護
写真共有時は許可を得る、外部への誤送信を防ぐ設定を徹底。 - ITリテラシー
家族のスキルに合わせ、アナログ手法(紙ノート・電話連絡)も併用。 - 無理をしない
完璧な共有を目指す必要はありません。記録・共有が続く仕組みを重視しましょう。
まとめ

多職種連携のカギは、家族が“情報ハブ”になることです。共有ツールやMCI、オンラインミーティングを活用し、タイムリーで正確な情報共有を実現することで、在宅介護の質は格段に高まります。
参考文献
- 厚生労働省. 「地域包括ケアシステムと多職種連携の推進」.
- 日本在宅ケア学会. 「在宅ケアにおける情報共有ガイドライン」.
- 厚生労働省 老健局. 「在宅医療・介護連携推進事業の手引き」.
- 筆者(薬剤師・介護コンサルタント)による現場経験に基づく内容。


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