「父に認知症の診断が出たとき、私の頭の中は真っ白になりました」
これは、あるご家族が私に語ってくれた言葉です。
これからの生活はどうなるのか、お金は足りるのか、仕事は続けられるのか…。 病院で「介護保険の申請をしてください」と言われても、そもそも窓口がどこにあるのかさえわからない。
見えない不安に押しつぶされそうになるのは、あなたが弱いからではありません。誰もが最初は初心者だからです。
でも、安心してください。 そのご家族も、**「地域包括支援センター」**という場所に電話をかけた一本の勇気から、状況が劇的に変わりました。
「制度を知って活用することで、介護の負担は確実に軽くなる」
この記事では、25年の現場経験を持つ薬剤師の視点で、あなたが今すぐ頼るべき**「3つの命綱」**について、専門用語を極力減らして解説します。
1.なぜ「制度」を知る必要があるのか?(共倒れを防ぐために)

認知症の介護は、100メートル走ではなくマラソンです。 「親のことは自分がなんとかしなきゃ」と一人で抱え込む責任感の強い人ほど、介護うつや共倒れのリスクが高まります。
制度を使うことは、決して「手抜き」や「親不孝」ではありません。 以下の**【3つの安心】を手に入れるための大切な権利**なのです。
①【介護保険制度】で「身体の安心」を
プロの手を借りて、あなたの睡眠時間と体力を守ります。
②【医療費助成制度】で「お金の安心」を
医療費や介護費用の負担を減らし、経済的な不安を和らげます。
③【成年後見制度】で「未来の安心」を
親御さんの大切な財産を、詐欺やトラブルから守ります。
2.【介護保険】プロの手を借りるための「最初のチケット」
「家族の疑問」:介護保険って、具体的に何をしてくれるの?
介護保険は、40歳以上の国民みんなで支え合う仕組みです。「要介護認定」というチケットを手に入れることで、費用の1〜3割負担でプロのサポートを受けられるようになります。
2-1. 利用までの「超・簡略」ステップ
手続きが難しそうに見えますが、やるべきことはシンプルです。
- 相談・申請 役所の窓口(介護保険課や高齢福祉課)に行きます。
★ポイント: 「窓口に行く時間もない!」という方は、お近くの地域包括支援センターに相談すれば、申請の代行をしてくれることが多いです。まずは電話でOKです。 - 調査・判定 認定調査員が自宅に来て、親御さんの様子を聞き取ります。 これと主治医の意見書を合わせて、コンピュータと専門家が「要介護度(どれくらい手助けが必要か)」を判定します。
- ケアプラン作成・利用開始 ケアマネジャー(計画作成者)と一緒に、どのサービスを使うか決めます。
2-2. 家族が「助かった」と語る主なサービス
- 訪問介護(ホームヘルプ) 「排泄介助や掃除をお願いできて、腰の痛みが減った」
- デイサービス 「日中預かってもらうことで、安心して仕事に行けるようになった」
- ショートステイ 「数日間泊まってもらい、久しぶりに朝までぐっすり眠れた」
- 福祉用具レンタル 「手すりや車いすを安く借りられて、家の中の転倒が減った」
3.【成年後見制度】親の財産と「騙されない未来」を守る
「家族の不安」:通帳の管理ができなくなったり、変な契約をさせられたらどうしよう?
認知症が進むと、ATMの操作ができなくなったり、訪問販売で高額な布団を買わされたりといったトラブルが起きます。これを法的に守るのが**【成年後見制度】**です。
3-1. 2つの種類があります
- 法定後見制度(もう判断が難しい場合) 家庭裁判所が「後見人(守ってくれる人)」を選びます。
- 任意後見制度(まだ元気な場合) 「将来判断力が落ちたら、この人に頼む」と、今のうちに契約しておきます。
3-2. 後見人がやってくれること(メリット)
- 財産管理: 預金や年金の管理、不動産の手続きなど。
- 契約行為: 施設への入所契約や、不当な契約(悪質商法など)の取り消し。
【注意点】 申立てには家庭裁判所での手続きが必要ですし、専門家(弁護士や司法書士)が後見人になると報酬(月額数万円〜)が発生します。 しかし、「父が詐欺被害に遭いかけたときに後見人がいて救われた」というケースは非常に多いです。まずは地域包括支援センターで相談してみましょう。
4.【医療費助成】「お金の不安」を少しでも減らすために
「家族の悩み」:通院や薬代、これからいくらかかるの…?
制度を知らないと損をしてしまうのが「医療費」です。以下の制度が使えるか、チェックしておきましょう。
① 高額療養費制度
1ヶ月の医療費が高額になった場合、上限を超えた分が戻ってくる制度です。所得によって上限額が決まっています。
② 自立支援医療(精神通院医療)
認知症そのものに加え、不眠やうつ、不安などの精神症状で通院する場合、医療費の自己負担が1割に軽減されることがあります。
③ 後期高齢者医療制度
75歳以上の方は自動的に加入します。窓口負担割合が変わる場合があるので確認が必要です。
5.一人で悩まないで。ここに行けば誰かがいます

最後に、あなたが「今日、明日」連絡できる窓口を整理します。
- 【総合窓口】地域包括支援センター 介護、医療、お金のこと…何でも相談できる「よろず相談所」です。まずはここに電話するのが一番の近道です。
- 【手続き】市区町村の「高齢福祉課」「介護保険課」 具体的な申請はここで行います。
- 【身近な相談】かかりつけ薬局の薬剤師 私たち薬剤師もチームの一員です。「薬の飲み忘れが多い」「最近怒りっぽい」など、お薬を受け取るついでに気軽に話しかけてください。
おわりに:制度は、あなたと家族を守る「お守り」です
認知症の介護は、先の見えないトンネルのように感じるかもしれません。 私の薬局にも、「もう限界かもしれない」と涙ながらに相談に来られるご家族がいらっしゃいます。
でも、どうか覚えておいてください。 **「制度を知ることは、自分と家族を守ること」**です。
あなたは一人ではありません。 **【介護保険】**で身体的な負担を減らし、 **【成年後見制度】**で大切な財産を守り、 **【医療費助成】**で家計を支える。
これらはすべて、頑張っているあなたを支えるために存在しています。 今日のこの記事が、あなたの肩の荷をほんの少しでも下ろすきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

出典・参考資料
- 厚生労働省「介護保険制度について」
- 厚生労働省「成年後見制度の利用の手引き」
- 厚生労働省「高額療養費制度」
- 厚生労働省「自立支援医療制度」
- 各地地域包括支援センター業務マニュアル

記事では基礎をお伝えしましたが、特に『実家の不動産』や『凍結された口座』について詳しく知りたい方には、こちらの本👇がわかりやすくておすすめです。専門家に相談に行く前の予習として読んでおくと、話がスムーズに進みます。

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