― コントロールできる範囲を見極めるだけで、驚くほどラクになる
「部下が思うように動いてくれない」「注意しても改善しない」「何度言っても理解してもらえない」。
これは、薬局長や管理職の方からよく聞く悩みです。マネジメントをしていると、こうした“人の行動や気持ち”に頭を悩ませる場面がたくさんあります。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
「本当にそれは、あなたがコントロールすべき範囲ですか?」
この問いは、あなたの思考を整理し、心を軽くする力を持っています。
本記事では、「人を変えようとしない」「自分に集中する」という視点で、マネジメントや人間関係における思考整理術をお伝えします。
「人を変えたい」がストレスの正体

私たちは日々の仕事の中で、無意識のうちに「人を変えよう」としてしまうことがあります。
- もっと積極的に動いてほしい
- 空気を読んで行動してほしい
- 私の考えを理解してほしい
こうした願い自体は自然なものです。しかし、これが“執着”や“イライラ”に変わると、強いストレスになります。
なぜなら、「人を変えること」は本質的に 自分ではコントロールできない領域 だからです。
自分の気持ちや行動、選択はコントロールできます。でも、相手の気持ちや反応、価値観は変えられません。
コントロールできること・できないことを分ける
アメリカの心理学者スティーブン・R・コヴィーは著書『7つの習慣』の中で、「影響の輪」と「関心の輪」という考え方を紹介しています。
- 影響の輪:自分が直接働きかけ、変えられること(自分の言動、考え方など)
- 関心の輪:自分が気になるけれど、変えられないこと(他人の行動、評価、天気、過去の出来事など)
例えば、部下が遅刻ばかりしてくるとき。
その事実にイライラして「もっとちゃんとしてよ!」と思うかもしれません。
でも「遅刻するかどうか」は、最終的には本人の選択です。自分が変えられるのは、「注意の仕方」「伝え方」「期待値の明確化」「仕組みづくり」など。
つまり、相手の行動を変えようとするのではなく、自分の対応を変えることにフォーカスするのが鍵です。
経験談:変えようとするほど、関係はこじれる
私が以前サポートしたある薬局長のケースをご紹介します。
その薬局には、何を指示しても反発気味のベテランスタッフがいました。薬局長は何度も「もっと素直になってほしい」「チームワークを乱さないで」と思い、注意や指導を繰り返していました。しかし、関係は悪化の一途。薬局長はついに「この人がいる限り、この薬局は変わらない」とまで言うようになっていました。
そこで私は薬局長にこう伝えました。
「その方を変えようとするのではなく、“あなた自身がどんな行動をとるか”に集中しませんか?」
薬局長は、それまでの指導スタイルを見直し、「指示」から「相談・共有」に切り替えました。また、「何をどう伝えると相手が反発しにくいか」という視点で自分の言葉を選ぶようにしました。すると、不思議なことに徐々にそのスタッフとの関係が改善し、薬局全体の雰囲気も柔らかくなっていったのです。
自分に集中するための3つの思考整理ステップ

では、実際にどうすれば「自分に集中する思考」に切り替えられるのでしょうか?
以下の3ステップで、思考の整理をしてみましょう。
1.「いま、何に悩んでいるのか?」を紙に書き出す
まずはモヤモヤの正体を可視化します。「〇〇さんがミスばかりする」「相談してくれない」など、気になっていることをすべて書き出します。
2.「これは自分がコントロールできることか?」と問いかける
書き出した悩みを1つずつ見て、「これは自分が変えられるものか?」と自問します。
相手の性格や行動は変えられませんが、「伝え方」や「仕組み」「関わり方」は変えられることが多いです。
3.「自分ができる最善の行動」にフォーカスする
コントロールできる部分に注目し、「今、自分にできる最善の一歩は何か?」を考えてみましょう。例えば、「今週中に〇〇について話し合う機会を持つ」「指摘ではなく、問いかけで関わる」など、自分発信のアクションを設定することがポイントです。
思考を整えることで、人間関係は自然と変わる
「相手を変えよう」としていたときは、どこか戦っているような感覚があったかもしれません。
しかし、「自分に集中する」と決めることで、気持ちに余白が生まれます。結果的に相手にも柔らかく接することができ、関係性が良くなることが少なくありません。
もちろん、すぐにすべてが解決するわけではありません。それでも、
「自分がどうありたいか」という軸を持って働くことは、あなたのマネジメントに芯を与えてくれます。
まとめ:マネジメントの本質は“変える”ことではなく“支える”こと
マネジメントの目的は、誰かを「思い通りに変える」ことではありません。
一人ひとりの可能性を信じ、必要な関わりを通して「成長を支える」ことにあります。
そのためにはまず、自分自身の軸を整え、自分が変わること。
その姿勢が、チームにも少しずつ伝播していきます。
「変えようとしない」ことが、結果的に「変化を生み出す」第一歩になるのです。
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